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五月初旬、スコットランドにようやく夏がきた。
四月じゅうは北東風が吹き荒れて冬は鋼鉄のような緊縛の指をゆるめず、やっと咲きだしたばかりのサクラの花を散らし、早咲きのラッパズイセンの黄色い花弁を枯らした。丘の頂きでは雪がそのまま凍りつき、山腹の洞穴の奥にまで吹きこんでいた。草地の石垣のかげに寒そうにうずくまって哀れっぽい声で鳴いている牛たちに青草を食ませてやれるのはいつのことかと農夫はしびれをきらし、残り少なくなった飼料をトラクターで冬枯れの草地に運んだ。
………………………………(「第1章」 冒頭より) |