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ロザムンド・ピルチャーの『九月に』(September,1990)の原書はペーパーバックで六一六ページ。長丁場の翻訳の作業を終始楽しみながらすませることができたのは構成の見事さ、人物描写の巧みさに私自身がまず惚れこんでしまったからだと思う。行きずりの人についての、その場かぎりの記述だと読みすごしていると、しばらくのちに同じ人物への二、三行の言及があったりして、ハッとするほど鮮やかにその人となりや生活が暗示され、そうした点描がまた全体の流れに貢献して、いやがうえにも立体感を盛り上げているのだった。
………………………………(「訳者あとがき」より) |