編著者 高槻成紀さんから
私たちは動物のいのちのことを考えています。ペットが殺されたと聞けば悲しみ、絶滅の心配がある動物が復活しそうだと聞けばよろこびます。ところが、一方で私たちはほとんど毎日、魚や家畜の肉を食べていますが、そのいのちを考えることはあまりありません。「考えている」ようで、考えてはおらず、動物によっていのちの重さに違いをもっています。ひとりの人の中でも、いのちへの思いはさまざまですから、人によって違いがあるのは当然のことでしょう。
本書はさまざまな立場で日々動物のいのちを考えている専門家に、その思いを書いてもらいました。専門家といっても研究者だけではありません。記者である太田匡彦氏はペットの「処理」についての社会の闇に迫っていますし、動物園長の成島悦雄氏は動物園の「内側」からの視点を紹介しています。また野生動物管理の現場にいる羽澄俊裕氏は野生動物と農山村社会の現場と未来について論考しています。動物のいのちといえば、われわれの日々の「食」のことがあり、新島典子氏はこのことに言及しています。やや意外なのは実験動物で、柏崎直巳氏は生命の操作ともいえる人工授精について考察しています。私は福島原発事故と動物のいのちのことを考えました。
編者として、動物のいのちについてこう考えるべきだと一定の生命観に収斂しようなどとは毛頭考えませんでした。そうではなく、私たちが漠然とわかったつもりになっている動物のいのちについて、さまざまな立場の著者たちが、具体的な事実を記述し、何を考えているかを語ることで、読者にいのちについて考えるきっかけにしてもらいたいと期待したのです。
閉塞感のある現代社会において、改めて動物のいのちの意味について考えるきっかけになることを期待したいと思います。 |