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「この本おもしろかったよ!」
順番やペースは狂いがちですが約1ヵ月に1冊のペースで朔北社の社長である宮本と、出版部の2人のM子の総勢3人が順番にお気に入りの本を紹介。本のジャンルは自由。本を読む楽しみを共有したり、誰かの本を読むきっかけになったらいいなと思っている。

夜をあるく

マリー・ドルレアン作 よしいかずみ/訳

BL出版 2021

 一日のうちのどの時間が好きかと聞かれたら夕暮れ時から夜にかけてと答えるだろう。一日が終わるほっとした時間が好きだ。まだ多くの人の活動が始まらない朝の早い時間にさまざまなものを照らし始める光もまた、よいものだが、それは静から動の時。その反対に沈んでいくときは動から次第に静になる。

夕方学校や仕事を終え、集団から個に戻る。もしくは個でなくとも家に帰り家族の中の自分となる。そしてご飯を食べ、まもなく瞼が自然に下がり、眠りに落ちていく。幸せな時間だ。だが、この本は、夜を歩く。夜のうちに家を出てどこへいくのだろう? 家族は歩き始める。夜の中を。

進んでいくにつれて都会のあかりからは遠ざかり、自然のあかりだけになる。暗闇に目がなれてくるとあたりのものが見えてくるから不思議だ。静けさの中に香る様々なにおいや音。普段は見ることがないけれど時々こんな風に歩いてみたらいつもは見えないものが見えるかもしれない。気づくかもしれない。やがて家族は山の上に出た。夜を歩いた後に見た光がやわらかく彼らを包む。

この本を読みながら私はこの本の中にいた。本の中の彼らの息づかいを感じる。暗闇で目を開くとき、耳を澄ますとき、またこの本に出会えそうな気がする。ずいぶんネタバレの紹介を書いてしまったが、ある人が「本当にいい本はネタバレしたっていいと感じられる本」と言っていたから、そう思ってもらえたらうれしい。

本の冒頭に著者が父親へむけてこんな言葉をのせている。
「歩くのが好きな、疲れ知らずの父へ」と。
わたしの父も歩くのが好きだった。しかし、すぐ疲れてしまう人だったけれど…。(文:やぎ)

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