生成AIが注目されている。人間の能力を上回るようになり、人間を支配するようになるという。進歩が臨界点に達して、2045年には人類のあり方に後戻りできない甚大な変容が生じる「シンギュラリティ」に到達するなどといわれている。ニュースで取り上げられている生成AIの成果には確かに驚く。しかし、シンギュラリティというが、どういうことなのか知りたいと思っていた。本書はこの疑問に一つの答えを示してくれる。
フィードバック、インプット、アウトプットなどは現在では日常的に使われている言葉で、学生時代にはノーバート・ウィーナーの『サイバネティクス』などを読んだ。通信工学と制御工学を統合して人間と機械のコミュニケーションを扱った思想だと考えていた。人間と機械を情報と制御の観点から同じように扱うことができるという。ウイーナーは『人間機械論』という本も書いているが、西田洋平の本書は『人間非機械論』である。副書名は「サイバネティクスが開く未来」となっている。
本書をここで要約することは困難だが、AIと人間との決定的な違いはAIは他律であるのに対して、人間は自律だという。AIはどれだけ能力が高くなっても外からの入力がなければ動かないのに対して、人間は自己完結している=自律しているという。
著者は、ウイーナーのサイバネティクスに元々存在していた思想を発展させて、次のように言う。
「生物と機械を同一視する思想として生まれたサイバネティクスには、実は当初から、それとは相反する思想が内包されていた。……同じ学問の潮流にありながら、むしろ生物と機械を峻別する思想として、それは密かに結実していく。」(はじめに)
印象的な事例をひとつだけ挙げる。人が暑い、寒いという。温度が何度になったら暑い、寒いということを設定することはできるが、人が暑い、寒いというのは温度に関係がない。この人の感じる暑さ、寒さをAIは決して感じることはできない、と。
本書が論じているのは,サイバネティクスから発展してきた「セカンド・オーダー・サイバネティクス」のことだ。現在AIはとてつもなく進化して人間の能力を遥かに上回る状況がすでに現出している。将棋や囲碁では人間を確実に打ち負かしている。AIは膨大なデータを読み込んで確率論を駆使し、指し手を指示する。しかし藤井名人はAIが指示する手ではなくて奇想天外の手を使って勝っている。
人間と機械に違いがあると考えるか、ないと考えるかが決定的な違いで、セカンド・オーダー・サイバネティクスは、両者の違いは無くならないということを主張している。(文:宮) |