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「この本おもしろかったよ!」
順番やペースは狂いがちですが約1ヵ月に1冊のペースで朔北社の社長である宮本と、出版部の2人のM子の総勢3人が順番にお気に入りの本を紹介。本のジャンルは自由。本を読む楽しみを共有したり、誰かの本を読むきっかけになったらいいなと思っている。

風をとおすレッスン 人と人のあいだ

田中真知/著

創元社 2023

 風…風に吹かれるのが好きだ。そして空気をかき回したり、流されたり、あいだを吹き抜ける風もなくてはならない。家も風通しが良ければ湿気の多い日本でも湿気を飛ばすことができるし、人間関係にも風通しがいいのはきっと居心地がいい。

風をとおすレッスンとはどんなことだろうか?
サブタイトルにもあるように、風は風でも「人と人とのあいだ」を通る風。
私たちはいつも誰かと共に生き、繋がり、そして時にそれによって助けられもするが、縛られ、苦しめられたりもする。かといって孤独にも耐えがたく、無理していたくない場所にいたり、合わせたりしていないだろうか?その結果自分を見失い、人にも親切にできない余裕のない心が出来上がってしまうこともある。

本の袖に、著者のこの本の中からの抜粋がある。

ーだいじなことは、
「つながりにとらわれないこと」だ。
そのためには、つながりを断ち切るのではなく、
ゆるめることだ。
「はじめに」よりー

本との出会いは不思議だ。この本だってそうだ。この「あいだで考える」シリーズの存在はなんとなく知っていたが、会社の近所の本屋でこの本と出合うとは思ってもみなかった。というのも、そこは絵本を中心とした本屋だからだが、店主はそれだけにこだわらず、良さそうだなとセンサーが働くと時々「おおっ!」と思う本を棚に並べていたりする。この本の装画と挿絵はnakabanさん。店主は絵本で彼の存在を知っていて、タイトルとnakabanさんの表紙に惹かれて仕入れたようだ。私は彼の絵本や絵を横目で見てはいても、あまりちゃんと見たことがなかった。しかし私もまた、この本を見た時、手触りやタイトル、あたたかい絵、手に収まるサイズ感など本の見た目に惹かれて手に取った。もちろん著者の田中真知さんのことも全然知らなかった。

しかしページを開いた瞬間から読み終わるまで一気に読んだ。そして読んでいるあいだずっと、心は静かなのに満たされた思いでいっぱいになった。帯に10代以上のすべての人にとあるように、難しいことは一つも書いていない。風や空気はその存在や現象だけでなく、さまざまな比喩で、人との関係を表現するのにも使われる。

人は無人島にでもいかないかぎり、一人で生きるのは難しい。私たちのほとんどは社会に属し、さまざまな社会の恩恵も、不利益も同時にうけて生きている。そこでそれをどう受け止めて人と関わっていくか。生きていく上で何がいちばんの悩みか考えると、ほとんどの人が行き当たるのが人間関係につきるのではないだろうか?喜びも人間関係なら、悲しみや憎しみ辛さもまた人間関係の中にある。断ち切らず緩める…著者は他者との関係が風通しがよいときはじめて自分らしくいられるという。人と人の繋がりが過剰になるとかえって人を不自由にするとも。そのとおりだなと素直に思う。繋がりすぎることで縛られたり、他がみえなくなることもある。そんなとき他者を受け入れられなくなったり、心に余裕がなくなってしまったりもする。淀ませないで風をとおすことで一人一人が生きやすくなったらいいなと思う。

著者が経験を通して書かれた文章からはなんとも素直な著者の気持ちが伝わってきて、気持ちがいい。かっぱとあひるのぬいぐるみと旅をする話、結論を焦らずじっくり回り道しながらみんなで対話すること、「間(ま)」をうめようとせずにその間をありのまま受け入れること等々…まるで自分もその場にいるような気分になりとても嬉しい気持ちになった。多くの人たちにこの本を読んで感じてもらえたらなぁと思う。興味深いタイトルが並ぶこのシリーズ(https://www.sogensha.co.jp/special/aidadekangaeru/)。もう少しほかのものにも手をのばし読んでみたい。それからこの田中真知さんという人のことももっと知りたい。こうやって読書というのはつながっていくのだなぁ。(文:やぎ)

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