幼い時から小学校中学年ぐらいの頃まで、私の周りにはたくさんの虫がいて、周りにいる虫には人間の友だちよりも沢山遊んでもらっていた気がする。一人で虫たちと向かい合う時間が好きだった。今思い出すと幸せな時間だったなぁと思う。虫や植物に向き合う時間はどんな時よりも自分でいられた。
今は随分虫たちから遠いところに来てしまったようだ。それでも今でも好きな虫たちをみつけると、なんだろう?とおもったり、ついつい捕まえようとしたり、じっと見てしまったりする。虫を撮るカメラマンたちの写真をみたり、絵本で虫の作品をみたりするとむくむくと、昔のわくわくするような気持ちが湧いてくる。
この絵本も、そのわくわくを思い出させてくれる一冊だ。今森さんは、写真家でもあり、何度か展覧会に足を運んだことはあるが、写真ではなく、切り絵作品も沢山作られている。写真展を観に行った時に、なぜか魅かれてこの切り絵の絵本を買った。久しぶりに開いてみて、ああこういう本だったと夢中で読み返した。本の題名の通り、あいうえおではじまる詩のような文章で、その虫の特徴をリズミカルに描き、その隣に虫の美しい切り絵が配してある絵本。見ていて飽きない。楽しい気分になってくる。本の中には知っている虫もいれば実物を見たことのない、知らない虫もいるけれど、細かく切られた切り絵からは虫への愛情と敬意が伝わってくるし、虫をつぶさに観察しているような気持ちにさせてくれる。文章から伝わる的確な言葉。図鑑や辞書みたいに説明し過ぎないところがこの絵本の好きなところ。虫を知るはじめの一歩にもぴったりだと思う。
一編だけ紹介したい。
** にらめっこ かまきりのかお めがぎょろり ***
横に添えられた虫たちのリアルだけど愛らしいこと!言葉や構図のどちらからも、ただようユーモアのかけらと虫への愛を見つけてほしい。
今は夏まっさかり!とくに虫たちが活発に活動する季節。虫は地球のそこらじゅうにいて、子ども時代、私に無料で生態を教えてくれる生きた教科書だったんだなと思う。幼かった頃は虫たちに随分手荒な仕打ちをしてしまった自覚がある。あの時は本なんか読まないでただ、自分なりに付き合っていただけだったが、そのおかげでいろいろ学ばせてもらったなと思う。私自身には生きた勉強でも…虫にとっては巣を壊されたり、水ぜめにされたり、塩をかけられたりしてきっといい迷惑だったに違いない。今更だが、迷惑をかけた虫たちに、あの時はごめんなさいと心の中で思うのだった。(文:やぎ) |