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「この本おもしろかったよ!」
1ケ月に約2冊のペースで朔北社の社長である宮本と出版部の計5人のお気に入りの本を紹介。本のジャンルは様々なので「本を買う時の参考にしてくれればいいな。」という4人のひそかな野望がつまっているコーナーです。

国鉄―「日本最大の企業」の栄光と崩壊

石井幸孝/著


中公新書 2022

 『国鉄―「日本最大の企業」の栄光と崩壊』石井幸孝著(中公新書 2022年)

 1987年に37兆円の累積赤字を出して分割民営化された国鉄とはどういう組織で、どんな歴史を辿ってきたのかを教えてくれる本だ。
 国鉄に入社して、国鉄の分割民営化後にJR九州の初代社長を務めた著者が、国鉄の歴史を技術面を含めて様々な姿を描き出し、最後に今後のあるべき姿を提案している内容で、著者の職業的自伝として読むこともできる本だ。通読して、著者は技術者にして組織人であり、経営者としての洞察力を持った有能な人だとわかる。

著者は、ディーゼル車の開発に長く携わってきたので、車両の技術的問題にも丁寧な解説をしている。

 「国鉄」は日本国有鉄道の略称で、公社という文字はついていないが、1949年に発足した三公社(日本国有鉄道、日本電信電話公社、日本専売公社)の一つである。
 国鉄の歴史を通覧すると、何回か転期がある。民間企業からはじまり、明治末年に国営企業になり、以来いつも国の管理下に置かれてきた。また鉄道は、戦前には常に軍事的な役割を負わされ、戦後は、占領軍のコントロール下に置かれた時期がある。そして、公社になった後も含めて、経営にはつねに政府の意向が貫かれて、自立した経営の立場を持つことが出来ないまま財政破綻から分割民営化を迎える。公社化から20年後の1964年には赤字になり、以後赤字が膨張し続けた。1964年といえば東海道新幹線が出来た年であるが、経営的には困難な状況が始まっていたわけで、以後そこから抜け出すことが出来なかった。そもそも国鉄には民間会社のように、困難な経営状況の中で独自の対策を決める、実施するということが出来なくて、常に政府の意向を受け入れざるをえないという制約された立場に立たされていた。。自立した、行動が出来ない。例えば、赤字克服のために運賃を値上げしようとしても、国鉄に運賃の決定権はない。そういうわけで、長い歴史の中で、最後は政府が面倒を見てくれるという「親方日の丸」の感覚が経営陣からなくなることはなかった。
 「日本国有鉄道」は公共企業体という、会社に近い経営形態であるが、戦前の鉄道省以来の官僚組織であり、さらに「忖度」や「横並び」など日本の巨大企業に共通する組織の弊害を抱えていた。

1987年に国鉄の分割民営化が実行されたので、2023年現在、JR時代は、国鉄時代に匹敵する時間を経過している。今日のJR時代について著者の2つの指摘が大事だとわかった。JRは本州の東日本、東海、西日本の3社は完全民営化まで進んだが、北海道、四国、九州の3社(3島会社)は、きわめて苦しい経営環境に置かれている。旅客は人口密度と密接な連関があるので独立採算で経営することが出来ないのだ。九州の場合は経営の多角化によってなんとか切り抜けられたようだが、北海道、四国は環境条件がちがうので単純におなじ方向で経営することが難しい。

著者のもう一つの指摘は、貨物輸送の再興である。ますます拡大しつつある新幹線網を貨物輸送で活用するべきだという。北海道が穀物生産地として更に発展してその輸送に新幹線を中心とした鉄道を使う。食料自給率向上を目指した政策的提言である。(文:宮)

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