アーカイブス
「この本おもしろかったよ!」
1ケ月に約2冊のペースで朔北社の社長である宮本と出版部の計5人のお気に入りの本を紹介。本のジャンルは様々なので「本を買う時の参考にしてくれればいいな。」という4人のひそかな野望がつまっているコーナーです。

ボーダー 移民と難民

佐々涼子/著

集英社インターナショナル 2022

 『エンド・オブ・ライフ』(集英社インターナショナル)。私が初めて読んだ佐々さんの本だ。全国の書店員が選ぶ本屋大賞のノンフィクション部門で大賞を受賞し、書店にその本がズラリと並んだときのことだ。20代、30代のころは圧倒的にフィクション(小説)を読むことのほうが多かった。しかし、ノンフィクションの本を多読している社長や、同僚の話を間近に聞くうちに、歴史や政治、人の生き様、考え方…等々について、遅まきながら関心をもつようになった。私たちが生きる今と過去に起こったこと、それらはその場限りの事だろうか? 物理的に離れた場所にあったり、過去や今、起こっている事が本を読んだ時点では他人のことだとしても、いつか自分の身にも起こるかもしれない。歴史は繰り返したり、繋がっていることも往々にしてある。読みながら著者の目に映ったもの、または感じたことを受け止め考える。そうすると今まで見えなかったものが見えてくる。知らなかった時には見えなかったものがくっきりと輪郭をもって立ち上がってくる。

『エンド・オブ・ライフ』を読んだあと、佐々さんの本を立て続けに何冊か読んだ。『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』『紙をつなげ 彼らが紙の本を造っている 再生・日本製紙石巻工場』。ご本人もどこかで書いておられたが、彼女が書く本は「死」に向かい合うものが多くあり、時に読むのに辛くなることもある。書く方だってきっと身を削られる思いだろう。しかし、書かずにはいられない佐々さんの思いは覚悟とともに私たちに伝わってくる。綿密な取材や聴き取り、時に体験。だから著作は決して多くない。現場に足を運ぶことの意味を改めて感じる。今の時代にこうしてこれらの本が一人の人間の中を通り、出来上がったことの奇跡を思う。佐々さんの書く、その生と死、そこで生きるということこそが全ての人に与えられたものなのだと改めて感じる。

前置きが長くなったが、この本『ボーダー』は副題にあるように移民と難民をテーマに書かれた本だ。そこには日本の入管の問題が大きく横たわっている。今の日本の現実は、新聞やニュースでも難民、移民認定の少なさや、処遇の劣悪さから死者が出るなど、様々な議論や問題を取り上げてきたが、なかなか変わらない。そのことを知るにつけ日本人として、なんとも言えない居心地の悪さを感じる。自分もそういう国の一員なのだ。しかしニュースをみてひどい…と思っても何かしてきた訳ではない。でも、少しでも本当のことを知りたいと思う。多くの人が知らなければいけないとも思う。理解しなければなにもできない。だから生身の人間のやりとりが伝わるこの本を読んでほしいと思う。

「ボーダー」この本の題名にもなっている言葉だ。ボーダーにはいくつかの意味がある、へり、縁、端などとという意味、国境、境界という意味、横縞の柄としても使われるボーダーという言葉。佐々さんがプロローグでボーダーという言葉にふれた箇所を抜粋したい。取材先であるアルぺ難民センターを訪れ、思いがけず大柄の若い黒人女性が、自分の赤ん坊を沐浴させているところに遭遇し、その赤ん坊を抱かせてもらった時に感じた佐々さんの思いだ。

 
 ――人はどこに生まれてくるかを選べない。だが、恣意的に人間の引いた国境線など、この小さな命に何の意味があるというのだろう。私たちは、みな裸のままで生まれてくる。それをこちら側と、あちら側で区別するものは、人間が頭の中で作った境界(ボーダー)にすぎない。(本書、プロローグより抜粋)

差別をまったくしないと言い切れる人はいるのだろうか?どこかでこの人はこういう人と、国や、考えの違い、肌の色、傾向…と、無意識にいろんなボーダーを引き続けてきたように思う。そのことを自覚しながら、ただ一人一人が生きるということに絶望せずにすむようにお互いを知り、理解し、その境界から手が伸ばし合えたら、もっと多くの人が生きやすくなるはずだ。国も同じこと。単位の大きさではなく、個々の人間がどこまでその線を取り払うかなのかもしれない。人であるという意味では、みんな同じ。ボーダーなんてないのだから。(文:やぎ)

*紹介されている書籍に関してはお近くの書店等でお問い合わせ下さい。(絶版・品切れ等の場合もございますのでご了承下さい。)