染色工芸家でもあり、アーティストでもあり、絵本作家でもある柚木さん。この本を読むと今年の1月末に訪れた立川にあるPLAY!
MUSEUMで開催された「柚木沙弥郎 life・LIFE」展を鮮明に思い出す。行く前にほとんど知識なく行った展覧会で、唯一知っていたのは『魔法のことば』(福音館書店)という本を出している人の名前だというくらい。そして当日展示をみて衝撃を受けて帰ってきた。展示や作品を見て鳥肌がたったのは初めての経験だ。彼の作った大きな型染の布の森の前でざわざわと心が大きくゆさぶられ、体中から何かが出て来そうな気持にさせられたのだった。
この本はその時に買ってきた。読むと柚木さんという人がよくわかる。いつもしなやかな心は、とても素直に自分の好きをみつけることができる。いつからそんなことが出来るようになったのだろう。もともと?それともいろんな経験を通して?人は日々選びながら生きている。人との関係、何に時間を使うか、何を買ったり、手にするか。人を気遣ったり、人の目を気にしてしまって好きを選べない時もあるかもしれない。
この本の中のところどころにちりばめられた言葉の中に本気の言葉があり、そこに嘘がないから、心に静かに染み渡るようにはいってくる。著者の一人、大島さんが柚木さんのお宅を訪れ、家じゅうにある色々なものを見て、なんでこの人はこんなものをあつめているのだろう、どこが気に入ってあつめているのだろうかと気になったという。そのことが気になりすぎで話も頭に入ってこない。とうとう話の合間に聞いてみる…。そんなところから二人の関係が深くなってゆく。そこに置いてあるのは柚木さんの「好き」だった。どこかへ出かけて行った時に柚木さんが気に入って買ってきた数々のものが並べられていた。そこに置いてあるのは柚木さんの好きの集合体だ。好きなものに囲まれて生きるのはなんていいものだろうか。
人にすすめられたものより、自分からああいいな、面白いなと思うものを選ぶ。そして二人は、次第に意気投合してゆく。「アートで暮らしをよくしたい」という1つの目標に向かって歩き出したのである。柚木さんはもっと『アート』という言葉の解釈を広げて、作ったものはみんな『アート』と呼べばいいといっている。多くの人はアートは美術館で見る物で、みんな自分はアートとは遠いところにいると思っていると。アートというのは、とてつもなく値段が高くてとても手を出せないと。でも作ったものがアートなら世の中はアートだらけだ。面白い考えだなと思った。そしてその考え方を好きだなぁと思う。
衣・食・住は大切だけど、それ以外にも心を豊かにするものがあるということ。大げさかもしれないけれど、そこに政治家が気づくことができたら世界はもっと平和で豊かなものになるような気がする。文化やアートこそが人が人として生きる特性なのかもしれない。
柚木さん、そして大島さんという人を知れてよかったな。(文:やぎ) |