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「この本おもしろかったよ!」
1ヶ月に約1冊のペースで朔北社出版部の3人がお気に入りの本を紹介。本のジャンルは様々なので「本を買う時の参考にしてくれればいいな。」という、ひそかな野望がつまっているコーナー。

。本のジャンルは様々なので「本を買う時の参考にしてくれればいいな。」という、ひそかな野望がつまっているコーナー。

【紹介した書籍に興味をお持ちの方へ】 この本は朔北社の出版物ではありませんので、出版状況等に関しましては、お近くの書店、あるいは各出版社にお問い合わせ下さい。

海は広いね、おじいちゃん
五味太郎/作・画

絵本館
バスにのって
荒井良二/作

偕成社

 同じ場所にいて同じ景色をみていても何を感じるかは人それぞれ。いや、そもそも何を見、何を見ないかも自由なのだ。流れてゆく時間の中で、よく見ていると一人一人の個性が立ち現れてくる。

 この2冊の本が好きだ。絵も話も全然違うのだけど、どこか似ている。『海は広いね、おじいちゃん』は海にでかけたおじいちゃんと孫の一日を描き、『バスにのって』は、ぼくがバス停でバスを待つ間に起こったことを描いている。どちらも同じ場所にずっといてその前を何かが通り過ぎていくのをそれぞれの感性で眺めたり眺めなかったり、関わったり関わらなかったりしているのを見て感じる楽しさがある。

『海は広いね~』のおじいちゃんは本を読むのに忙しく、一方、孫のぼくは、見えるもの全てに面白がり、興味津々。次々たちあらわれる生き物と一緒の時を過ごすぼく。その生き物とは宇宙人だったんだけど‥。おじいちゃんは孫のいう事に相槌を打つには打つが孫を見ることはない。けれどどこかのんびりとしていて憎めない。孫を振り返らないおじいちゃんが唯一反応したのが「女の人」という言葉。ほほーそうかおじいちゃんは女の人には反応するんだね、とゆかいな気持ちになる。
 もう1冊の絵本『バスにのって』は「のって」と題名にあるけれどバスにのらないお話だ。バスにのってどこかへいくはずのぼくがバス停でバスを待っている。待てど暮らせどバスは来ない。だけど、ぼくがバス停にいる間に、いろんな人や乗り物がその前を通り過ぎていく。一日中バスはやってこない。夜になり朝になり…。
 目の前を通り過ぎるものを見ながら人は何を感じたり、考えたりするのだろう。そのぼくはそれを見ながら何を考えていたんだろうなあと考える。待ったあげくにやってきたバスは満員でとてもじゃないけど乗り込めない。そこでぼくがどうするか…?その判断もまたその人にゆだねられているのだ。

 人は毎日いろんな道の岐路に立っている。だけどほとんどの人はそれに気づいていない。ちゃんと自分で選んでいるはずだけど、無意識に選び取っているから気づかないのだろう。もちろん意識して立ち止まって判断することもある。でもおそらくは無意識の判断の数の方が圧倒的に多いはずだ。どっちがいいとか、楽しいかな?好きかな?という自分の心の中の意識が自然に働き、スムーズによどみなく選び取っていく。

このゆったりした時間が流れる2冊の絵本を読むたびに、登場人物たちの心の動きはどんなかな?と想像してなんだか楽しい気分になってきて、なんだか胸がすっとするのである。(文:やぎ)