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「この本おもしろかったよ!」
1ケ月に約2冊のペースで朔北社の社長である宮本と出版部の計5人のお気に入りの本を紹介。本のジャンルは様々なので「本を買う時の参考にしてくれればいいな。」という4人のひそかな野望がつまっているコーナーです。

たぷの里 たぷの里

藤岡拓太郎/作・絵

ナナロク社 2019

 言葉のもつ意味や想像性…様々な意味で私はこの絵本が好きだ。大真面目なおすもうさんの顔と困惑したような男の子のなんとも言えない表情。この本は「たぷの里」という名前のすべてがそこにすっぽりとあてはまる、そんな絵本だと思う。

読んでみると本当にシンプルだ。出てくるのは主に、たぷの里と男の子とその家族。何かをする人がいて、そこにたぷの里がやってきて、誰かの頭の上におなかの肉をたぷっ!とかぶせていく。それだけの繰り返しでこの家族の一日が過ぎてゆく。そこはかとないおかし味がこころにいつまでも残る。そして、繰り返しが招く、次はなんだろうというワクワク感…。人は思いがけないことが起こったときに、どう反応したらいいかわからなくなる。この本の作家はそんな、なんとも言えないような表情を描くのがとても上手いのだ。著者プロフィールにはギャク漫画家としてInstagramやTwitterで作品を発表してきたとあった。それをまとめた漫画と、最近もう一冊の本が、同じくナナロク社から出版されている。

この絵本は音やその場の様子をすべてオノマトペで表現している。短くシンプルに。こんなにシンプルな言葉と絵で、こんなにもいろんなことが伝えられるのだなと、何事も長文になってしまう私は思うのである。こんなふうに私も、シンプルな言葉で人を面白がらせる才能があったらなぁとも。

オノマトペといえば最近、『名前のないことば辞典』http://yueisha.net/books/9784909842060/(出口かずみ/著 遊泳舎)という本を買った。出口かずみさんの本や作品を見ていると、なんだか藤岡拓太郎さんとおなじ「におい」を感じてしまう。このオノマトペの言葉を集め、言葉の意味と、その状況をあらわす絵とで描かれた辞典は、意味を読みながら、絵を見ると、例となっている絵に思わずクスッと?ふふふと笑ってしまう辞典なのだ。ゲラゲラ大笑いする人もいるかもしれないが、私には、おもわず静かにクスッと笑ってしまう笑いがよりこの二つの本の本質に近く、大真面目に見えながら、いつの間にか、心がほどける感じがするといったらいいだろうか?私はこの二人の作家さんたちのそういうセンスが好きなんだろうと思う。

少し前に、たまたま九段下に用事があり神保町にあるブックハウスカフェに立ち寄った。幸運なことに、この本の原画展があることを直前に知ったのだ。原画の他に、制作秘話、製作段階での様々な表情の登場人物たちのラフなども拝見することができた。シンプルな本でも、すいすいと簡単に出来上がるわけではない。出版社、著者、デザイナー、印刷屋等々様々な人たちがそれぞれ練ったり、こねたりしていくうちにその本の一番いい形が生み出されてゆく。そんなことを感じられる小さいけどいい展示だった。多くの人の心の緊張をふっとほどいてくれる本としてこれからも何十年、何百年も残っていってほしいと心から思う。(文:やぎ)

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