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「この本おもしろかったよ!」
1ケ月に約2冊のペースで朔北社の社長である宮本と出版部の計5人のお気に入りの本を紹介。本のジャンルは様々なので「本を買う時の参考にしてくれればいいな。」という4人のひそかな野望がつまっているコーナーです。

ブギの女王・笠置シヅ子
―心ズキズキワクワクああしんど―


砂古口早苗/著

現代書館 2010

 ブギウギというと笠置シヅ子を思い出す。敗戦直後の日本で並木路子の「リンゴの唄」が大いに流行り、少し遅れて、笠置シヅ子の「東京ブギウギ」が、陽気な歌いぶりで受けに受けた。昭和二十年年代後半までブギウギ時代が続いたが、数年の間にブギ、ブギウギがついた歌がいったい何曲つくられただろうか。笠置シヅ子が歌った曲だけでも「買い物ブギ」「ホームランブギ」「ジャングルブギ」「ヘイヘイブギ」といまでもすぐに思い出すし、笠置シヅ子以外の歌手が歌っていまでも覚えている曲には「ひょうたんブギ」(春日八郎)、「三味線ブギ」(市丸)、「真室川ブギ」(林伊佐緒)がある。どの曲も結構流行ったのを覚えている。
 私は、笠置シヅ子が大流行していた時代を子供の頃経験していたし(本書によれば笠置シヅ子は1956(昭和31)年の紅白歌合戦に出たあと、1957年歌手引退発表)、その後テレビドラマに出ていたのをよく見ていた記憶がある。それで笠置シヅ子について表面的でしかないが、イメージを持っていて、「こういう歌手、こういう俳優」とわかっている気になっていた。砂古口早苗『ブギの女王・笠置シヅ子―心ズキズキワクワクああしんど―』は、その記憶を丁寧に調査した事実に基づいてただしてくれた。うまい歌手というのは全く変わらないが、生き方にも共感できる部分が多々あって、ますます好きな歌手になった。
 笠置シヅ子の歌はもっぱら服部良一の作曲(作詞も服部が多い)で、作曲家と歌手のピッタリ息のあった関係が面白い歌を生み出した。「買い物ブギ」は実に面白い歌だが、差別用語が使われているとして、CDではその部分がカットされている。ユーチューブでそれを確認したが、残念な処置と言いたい。
 笠置の後援会長を戦後まもなくの頃の東大総長南原繁がしていたが、この本によると、単なる同郷の誼でではなく、南原は笠置シヅ子の実父の友人だった。小学校1年下の同窓生で、中学も一緒だった。笠置シヅ子はいささか複雑な生い立ちをしていたが、南原はマスコミが伝える「生い立ち」に間違いがあるので、それが気がかりで知っていることを話した。笠置シヅ子はのちに「周囲がうるさいので大学に来て欲しいと、さし向けてくださった車で東大へ行き、総長室でお目にかかった。先生は娘に語りかけるようなやさしいまなざしではなされた」と語っている。
 引退したときにその後も俳優として仕事をつづけるのに、一世を風靡した大歌手が映画会社やテレビ局を訪れ「これまでの歌手・笠置シヅ子の高いギャラはいりません。これからは新人女優のギャラで使ってください」と挨拶して回ったという。生活ということを真面目に考える人柄がうかがえる。
 笠置シヅ子と吉本の一人息子(結核で早くに亡くなった)の間に生まれた娘は、母親のまじめな生き方を見ていたのだろう、「娘として言うのではなく、人間として、私には一生超えられないひとです」と語ったとある。笠置シヅ子は、娘にこんなことを言われる母親であった。
 笠置シヅ子は、今では忘れられた流行歌手かもしれないが、私には懐かしくも楽しい読書であった。(文:宮)

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