既に絶版となってしまった本だが、子どもの頃に好きだった本のひとつがこの本だった。何度も読んだ記憶があることから、家にあった本の一冊だったのだろうと思う。調べてみると著者のビル・ピート(Bill
Peet 1915-2002)はアメリカ、インディアナ州出身。1938-1964に、ウォルト・ディズニー・カンパニーに所属、のちに子どもの本の作家となった。日本でも1970年代から1989年頃までの間にかなり沢山の本が翻訳されている。この本は1971年にあかね書房から出版され一度絶版になったのち、佼成出版社から1985年に訳者が変わって復刊されている。古本で最近買い直して気づいたが、私が読んだのは、あかね書房の掛川恭子さんの訳のようだ。私の記憶のヨゴース人は代田昇さんの訳ではバッチイ人になっている。だが幼い時の印象で感想を書きたいのでヨゴース人を登場させて感想を書くことを許してほしい。
ワンプの星にはワンプだけが住んでいる、自然豊かな水と草木に溢れる星だった。ワンプたちはその草を食料として平和に暮らしている。そこにある日、別の星からやってきたヨゴース人たちが好き勝手に開拓し、さんざん草も水も空気も汚した挙句にワンプから奪った星を良心の呵責も感じずに捨て、新たなる自分たちの欲をみたすべく他の星へと去っていくという話だ。
平和な星にあるとき侵略者がやってきて乗っ取るような話はよくあるが、緑あふれる星から空気がよどんでいく様子が頁を進むにつれて顕著になっていく。その描写がうまく、すっかりその世界にいるような気分にさせたれた。子ども心にもそれは恐ろしい変化で、ヨゴース人という身勝手な人の存在を感じた。もちろん最後に救いはあるのだけれど。
大人になり、様々な問題について考えるとき、繰り返し繰り返しわたしの頭にはこのワンプたちと、ヨゴース人たちの姿が浮かび上がった。ワンプとヨゴース人の関係はいまもどこにでもある気がする。様々な問題の中に。この本を読んだ、幼いころの私。著者は本を通して私の心に何かの種をまいたのだろう。こんなに長い間、記憶に残り、私の考えを作る一部になったのだから。
ビル・ピートについて調べているうち1993年にあすなろ書房から出版された『ぼくが絵本作家になったわけ』という自伝があることを知った。図書館で借りてきて読み始めると自然と動物、そして絵を愛したビル・ピートの子ども時代に行き当たった。自然界のバランスを保つための残酷な仕組みをやりきれなく思うものの、パイプから川に垂れ流される有毒な工場廃液が引き起こす残酷な害とは比べ物にならなかったと書いている。自然の中にいて、彼が見てきたもの…そんなものが作品の中に今もなお生きているのをそこから感じたのだった。
(文:やぎ) |