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「この本おもしろかったよ!」
1ヶ月に約1冊のペースで朔北社出版部の3人がお気に入りの本を紹介。本のジャンルは様々なので「本を買う時の参考にしてくれればいいな。」という、ひそかな野望がつまっているコーナー。

。本のジャンルは様々なので「本を買う時の参考にしてくれればいいな。」という、ひそかな野望がつまっているコーナー。

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史記を語る

宮崎市定/著

岩波新書

1979

 『史記』との付き合いが60年ほどになるという碩学が新書に書き下ろした本である。長年書いてきた『史記』についての論文を一般読者向けに読みやすく書き直すのがいいのか、構想を新たに既発表の論文を使わずに書き下ろすのがいいのか迷っていたそうだが、「併し実際に書き始めて見ると、別に迷う必要はなかった。自分が書きたいことは結局これまで書いてない材料の方へと、自然に傾いて行ったからである。」(まえがき)
 そして、宮崎さんの自在な文章で、『史記』の特色やら、内容やらが叙述されている。
 『史記』や著者の司馬遷については、無数の著作が書かれている。武田泰淳の『司馬遷―史記の世界』の冒頭の「司馬遷は生き恥さらした男である。」は高校時代の世界史の教師から聞いたと記憶するが、一度耳にして以来忘れることはない。その司馬遷が史書を著す時に創り出した構成や独自の史観、構成の自由な変形についてに簡潔に解説している「正史の祖―紀伝体の創始―」の章は宮崎さんの面目躍如という感じだ。

新書というコンパクトな作りなかで、以下「本紀」「世家」「年表」「列伝」の4章があるが、『史記』の内容を紹介しつつ、宮崎さんの批評が挟まれている。たとえば本紀」の章末に「史記の歴史観」という小見出しのもとに「私は史記本紀を読みながら、司馬遷は対立の中から新しい政権が生ずるものだという史観を抱き、その史観が活き活きと現れるように工夫をこらして、本紀を書き上げたことを看取し、彼の史観を一種の弁証法と名付けた。」と書いたが、その少し前の段落では、時間的推移を理解しようとするときの中国人の思考形式を検討して、時間的推移を分解して周期とし、その1周期を4分する傾向を有するという。1年を周期として春夏秋冬とし、1日は朝昼夕夜と4区分し、文学上では起承転結となって現れると。そして歴史の時間的推移を見るときには、起・承・転・結の4段階は、弁証法の正・反・合の3段階に比較して、より適切ではないかと主張している。
 こんな具合で、本書は、『史記』がどんな歴史書なのかを、自由な発想と洋の東西にまたがる該博な知識を駆使して教えてくれる、まことに面白い読み物である。
(文:宮)