この本は漫画だ。その漫画の合間合間に7つのコラム、そして「あとがき」からなっている。著者はベルリンに住み、時折、ヨーロッパの他の国へ行き、そこで見えてきた事々を自分の目線で描いている。
けっして軽快さはないし、胸が熱くなるような感動とは違うのだけれど、心の芯の部分にしっかり残るような読後感を持った。
この人が描くものからは、その町で淡々と人と共に生きている生身の人の生活が伝わってくる。どこかにいる誰かではなく、どこにでもいる誰かの生活。
描かれているのは、人のような?人でないような?不思議な生き物として描かれているので、それが、すべての人種の違いや見た目の偏見から自然に心を自由にしてくれたように思う。
日々の生活にそんな大きな出来事が次々描かれているわけでもない。誰もが生きる中で起こる出来事を、楽しんだり、悲しんだり、考えたりしながら、答えを出す。そのプロセスが描かれ(著者本人の)、もちろん答えの出ることばかりではないけれど、そのことを繰り返してゆく。
行った先々で誰しも国の特徴をとらえてみたりもすることもあるだろう。しかし、その特徴は国の特徴で個人のそれではないということに気づく。日本人だって同じだ。平均的な傾向はあるかもしれないが、日本にいるから、育ったからといって、奥ゆかしいわけではないし、誰もがみんなとそろって何かをするのが得意なわけでもない。
ある日、町のどこかに貼られたシール。そんなものを見つけていく「僕」。それが何かを探ったり面白がる「僕」。彼は最後にこう言っている。
下記に抜粋しておきたい。
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ここには、よくわからないものが多い。 お金や名誉のためでもなく、 一言では言えない色々なものだ。
誰かの気まぐれや 自由意志でなんとなく発生したもの。 そういうものに毎日の生活で 充分にふれていると、
僕の気持ちも自由になれる。
自由な気持ちで 僕は… …僕は、 特に何かするわけじゃないんだけど、
生活をやっていきたい。 自分の好きな 生活をつづけたい。 (本文より抜粋)
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ああ、そうだよ。こういうことだよなあと思いながら最後のあとがきを読み終えたのだった。
(文:やぎ) |