朝日新聞に連載されている「星の林に ピーターマクミランの詩歌翔遊」を愛読している。そのピーターマクミランが『英語で味わう万葉集』という本を書いていると知って読みたくなった。
本書によると「星の林に」という言葉は柿本人麻呂の歌で、日本のあらゆる詩歌の中でもいちばんのお気に入りの歌で、朝日の連載のタイトルにしたのだそうだ。
天(あめ)の海に 雲の波立ち 月の舟 星の林に 漕ぎ隠る見ゆ
Cloud waves rise
in the sea of heaven. The moon is a boat that rows till it
hides in a wood of stars.
マクミランはこの歌を、海に見立てられた夜空、波のように登る雲、月を舟に見立てて、舟(月)が林(星)の中に隠れるという、自由自在に矛盾するイメージを示している、と解説している。
書名に「英語で味わう」とあるが、英語を読まなくても十分楽しめる本だ。日本文学についてのマクミランの学識は広く深く、選んだ和歌を英語に翻訳するために、通常の和歌の解説とは角度の違う見方で語句を捉えていて、コンパクトな解説文の中でひと味違う味わいを伝えてくれる。
約4500首ある万葉集の作品から取り上げられるのは僅かな数だが、中でも相聞歌が多く取り上げられていて、万葉人の素朴で直截な気持ちの表現に時間の隔たりを感じず共感することができるのである。
あしひきの 山のしづくに 妹(いも)待つと 我立ち濡れぬ 山のしづくに (大津皇子)
In the
dripping mountain dew standing, waiting for you, I grew weary
and wet standing, waiting for you in the dripping mountain dew.
我(あ)を待つと 君が濡れけむ あしひきの 山のしずくに ならましものを (石川郎女)
While waiting for me you were drenched with the mountain dew.
How I wish I could've been that mountain dew.
取り上げられている作品には柿本人麻呂や山部赤人や山上憶良などのよく知られているものもあり、読み進むにつれて、改めて万葉集に対する興味が掻きたてられる。
(文:宮) |