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「この本おもしろかったよ!」
1ヶ月に約1冊のペースで朔北社出版部の3人がお気に入りの本を紹介。本のジャンルは様々なので「本を買う時の参考にしてくれればいいな。」という、ひそかな野望がつまっているコーナー。

。本のジャンルは様々なので「本を買う時の参考にしてくれればいいな。」という、ひそかな野望がつまっているコーナー。

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パリでメシを食う。

川内有緒/著

幻冬舎文庫

2010年

  人が本を読むきっかけなんて本当に様々だ。私とこの本との出合いはネットで見た書評だった。その文章を読んでその本を読みたくなる。そんな文章にときどき出合う。
 この本は著者が話を聞いた人たちの生き様が描かれている。川内さんの目に映る彼ら、感じる彼らを彼女のフィルターを通して、彼女の言葉で書かれている。常にそこには1対1の人として対等な関係があり、私には、それがとても心地よかった。
 著者はこれらの言葉を集めている時、パリに住んでいた。パリに住んでいるのだから聞こうと思えば色んな国の人たちに話が聞けただろうが、彼女はあえてパリに住む日本人に焦点をあてている。パリで食いぶちを稼ぐ日本人にだ。話をした人たちの年齢も職業も様々だ。普通の人の普通の人生。普通が平凡かと思ったら大間違いだ。人が生きて行く中でいろんな成功や、失敗、迷い、絶望それぞれにそれぞれのドラマがあるということを教えてくれる。その時、人はどんな判断をし進んできたのか? きっかけ、流れ、意志など様々な要因が、その人の人生をつくっている。歴史が動くくらいの大きなことを成す人は世界の人口の中でも、ほんのわずかな人かもしれない。だけど目に見えていないだけで、その人のした少しのことが少しだけ今の世界を動かす何かになっているはずだ。目に見えているものだけが全てではないのである。
 この聞き書きのような活動は初めから発表の場があって始まったものではなかったようだ。ただ話を聞き、あなたのことを文章に書かせ下さいと頼む。時には何度も、何年にもわたり、足を運ぶ。なるほど…人はすぐに心を開き話してくれる人もあれば、少しずつ心を開くタイプの人だっている。時間をかけて、その人を理解していったのがわかる。人の心が自然にほどけるまで時間をかけて。または、自分自身がその人を理解できるまで。そこには、信頼関係が生れたのではなかっただろうか。
 スタッズ・ターケルのことを思い出した。人に話を聞いて書かれた著書の多い金井真紀さんが影響を受けた人だ。この人はインタビューの達人。インタビューした人の数が半端ではない。彼の『仕事(ワーキング)!』(晶文社)という本もまた115種の職業の人々に自分の仕事について語ってもらったものをまとめている。人には一人一人感情があり、誇りもあり、生活があり、生きているということ。それは複雑そうでいて実は本当にシンプルなことだ。ターケルの『仕事!』も金井さんの『世界はフムフムで満ちている』(皓星社)も『パリでメシを食う。』も、同じようにその人の食いぶちを描き、人生を描くという点で共通の本だ。
 人が人に興味を持ち、そして影響をうける。本は、文章は、本来は会えなかったであろう人々と私たちを著者が会わせてくれる窓のようなものだ。この本を読み終わったら不思議だけれど私も何に臆することもなく私の信じる道をすすみたいと思った。この人の書きっぷり、好きだなあ。
(文:やぎ)