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「この本おもしろかったよ!」
1ヶ月に約1冊のペースで朔北社出版部の3人がお気に入りの本を紹介。本のジャンルは様々なので「本を買う時の参考にしてくれればいいな。」という、ひそかな野望がつまっているコーナー。

。本のジャンルは様々なので「本を買う時の参考にしてくれればいいな。」という、ひそかな野望がつまっているコーナー。

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キャパとゲルダ

マーク・アロンソン,マリナ・ブドーズ/著
原田勝/訳

あすなろ書房

2019年

 オーウェルといえばスペイン戦争で撮影された「くずれおちる兵士」を思い出す。この写真については、何十年も経ってから写真が演技して撮られたのではないかという批判が報じられた。真偽はともかく、キャパが危険極まりない戦場に身を晒して多くの写真を撮った人であることはまちがいない。カメラマンが自分の意志で戦場に赴き、戦争の実態を報道する役割を果たしたのだ。キャパはそのような戦場カメラマンの先駆者であるが、現代では戦争写真の効果を知った政府、軍部が、見るものに対して都合の良い影響を及ぼすように報道をコントロールしている。その意味ではキャパは牧歌的な時代の人間臭い戦場カメラマンであった。
 本書は、ロバート・キャパとその恋人であり、二人三脚の仕事の相棒であるゲルダ・タローの短い生涯をたどった本である。1936年のスペイン戦争が主要舞台だから二人の人生と仕事は第二次大戦まで及ぶ戦争の時代と切り離すことができない。ハンガリーに生まれたユダヤ人のエンドレ・フリードマンは写真家として活動するためにロバート・キャパと改名し、やがて離れがたい恋人、相棒になるゲルダ・タローにめぐりあう。
 スペイン戦争には多くの文人、芸術家が関わっている。魅せられたようにヘミングウェー、ドス・パソス、ピカソ、オーウェルなどがやってきて作品を残した。このあたりのこと、ソ連やナチスドイツの関わり、その他の欧米諸国の対応についても、本書は複雑な糸を解きほぐして解説している。
 キャパは、危険きわまりない戦場の写真によって世界的に有名になるが、ゲルダはスペインの戦場で命を落とし、キャパを悲嘆のどん底に陥らせた。そのキャパも1954年、インドシナ戦争で亡くなった。
 原書はヤングアダルトのための本として出版され、訳書も児童書として編集されていてルビが多用されているが、中身は、YA用とか一般書とかいう区別は全く関係なく、キャパとタローの二人の戦場カメラマンを愛情の籠もった筆使いで描かれて いる。学生時代に読んだキャパの『ちょっとピンボケ』やオーウェルの『カタロニア讃歌』を思い出しながら文章を追い挿入されている写真を見た。
(文:宮)