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「この本おもしろかったよ!」
1ヶ月に約1冊のペースで朔北社出版部の3人がお気に入りの本を紹介。本のジャンルは様々なので「本を買う時の参考にしてくれればいいな。」という、ひそかな野望がつまっているコーナー。

。本のジャンルは様々なので「本を買う時の参考にしてくれればいいな。」という、ひそかな野望がつまっているコーナー。

【紹介した書籍に興味をお持ちの方へ】 この本は朔北社の出版物ではありませんので、出版状況等に関しましては、お近くの書店、あるいは各出版社にお問い合わせ下さい。

しあわせの牛乳

佐藤慧/著
安田菜津紀/写真

ポプラ社

2018年

 岩手県の岩泉町にある「なかほら牧場」。一年中、牛が山で放牧されている珍しい牧場で、牛たちは大自然の中、自分でえさを探し、自然の草を食べて、のびのびと暮らしている。そこでつくられる牛乳は、ふつうに売られている牛乳とは全く違い、栄養豊かなとてもおいしい牛乳だ。けれども、日本のほとんどの牧場では、牛はせまい牛舎に入り、穀物のえさを与えられ、自由のない中で飼育される「近代酪農」が主流。なぜなら、たくさんの牛乳が作れるからだ。でも中洞さんは、自らの信念を貫き、本当にやりたい酪農、山地酪農に挑む。壁にぶつかり、たくさんの困難を乗り越え、最後まで自分の酪農を信じ、簡単には諦めず、「しあわせ」いっぱいの「中洞牧場牛乳」を完成させるのだ。すごいとかしか言いようがない中洞さんの生き様に、心が揺さぶられる。

「なかほら牧場」では、牛たちも中洞さんも、ともに生き、みんなしあわせだ。
自然の中でのびのびと暮らし、新鮮な草を食べ、糞をして、好きな場所で寝る。それが牛たちのしあわせ。朝早くから働いて、美味しいご飯を食べて、よるはぐっすり眠る。そんな毎日が中洞さんのしあわせ。この本を読んでいると中洞さんと牛たちが、羨ましくてたまらなくなる。しあわせってなんだろう?

 表紙を見ただけでも、しあわせな気分になれる。裏表紙も、とてもいい。ぜひ手にとってひっくり返してほしい。安田菜津紀さんの撮った牛たちの表情は愛くるしく、しあわせがいっぱいだ。
 佐藤慧さんが数年にわたり取材をして書かれた文章はあたたかく、心に響く。「なかほら牧場」の魅力とともに、これから私たちが未来のために何を考えるべきかを問いかけられているようにも思う。
 最近思うのは、地球は人間だけのもではないのに、木も土も水も山も海も空も生き物も、まるで全て自分たちのモノのように、ずいぶんと身勝手なふるまいをしているということ。ここまで、世の中の近代化し、どんな分野でも人間抜きの効率化が進んでしまったら、それ以前の生活に戻るのは難しいのかもしれない。自分だって、そんな世の中で暮らしている一人だ。

賞も受賞しているし、話題にもなっていて、たくさんの人がこの本の存在を知っているだろう。書いても書いても、この本の良さを十分に伝えられる言葉を私は持ち合わせていないのだけれど、それでも紹介したい、一人でも多くの人に読んでほしいと思わせる魅力がこの本にはある。私が読んで、しあわせな気持ちになり、パワーをもらい、そして考えるきっかけをくれた本。「とにかく読んでほしい」と、大きな声で言うしかない。
(文:みなりん)