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「この本おもしろかったよ!」
1ヶ月に約1冊のペースで朔北社出版部の3人がお気に入りの本を紹介。本のジャンルは様々なので「本を買う時の参考にしてくれればいいな。」という、ひそかな野望がつまっているコーナー。

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524人の命乞い 日航123便乗客乗員怪死の謎

小田周二/著

文芸社

2017年

 1985年8月12日に日航123便が墜落、乗客乗員520人が亡くなった。旅客機墜落事故では最大級の大事故である。事故から34年が経つが、今年も事故のあった御巣鷹山に慰霊登山する遺族の姿がニュースで伝えられた。本書は、事故原因をめぐって遺族の一人が書いたもの。
 これほどの大事故に関して、航空事故調査委員会の報告書には従来から幾多の疑問が提起されてきた。著者は、事故調査委員会報告書をはじめ、事故後の政府、日本航空の対応に大きな疑問を抱きつつもなすところなく過ごしてきた。それが、航空力学、航空機の構造、操縦から法律まで必死に勉強し、資料を集め調査研究を重ねることになったのは、1989年2月に起きた「ユナイテッド航空811便貨物室ドア脱落事故」の事例である。この事故で愛する息子をなくしたアメリカのキャンベル夫妻が、アメリカ運輸安全委員会の発表した事故原因に疑問を抱いて、独自に調査、研究に奔走し、異なる事故原因を突き止めて運輸安全委員会に提示した。指摘を受けた委員会は脱落したドアを海底から回収し、新たな結論にいたった。ボーイング社も認めた。著者は「息子の死を無駄にしないために事故原因を調査究明して811便事故の真実を明らかにする。これは2度と同じ事故を引き起こさないためには不可欠である。真の事故原因を亡き肉親の墓前に報告することが最大の供養である」というキャンベル夫妻の姿勢に心打たれたと書いている。
 事故調査委員会報告者は機体後部の圧力隔壁破壊が墜落原因としているが、著者は自衛隊が訓練中に使用していた無人標的機が垂直尾翼に衝突したことから「事件」が始まったと主張している。発表されている限りの事故の経過、様々な目撃情報、生存者の証言、10年後に明らかにされたアメリカ軍人の告白書などを検討した結果として、無人標的機の衝突以降の経過を再構成してみせた。事実を明らかにするどころか隠蔽し、日本航空に責任を負わせて幕引きを図ろうとする政府権力者のの無責任を追及する。しかし、著者によれば関係機関から誠意ある反応はまったくない。アメリカの運輸安全委員会と日本の航空事故調査委員会とでは権限、能力、誠実さで比較にならないほどの開きがあるようだ。真実を明らかにするためには、アメリカ軍人のような、良心を呼び覚ました関係者の証言を待つよりなさそうである。
 あったことをなかったことにし、真実を明らかにしないという点は、関東大震災のときの朝鮮人・中国人虐殺、従軍慰安婦問題、南京虐殺事件、最近のモリカケ問題まで、政府権力者の持ち続けてきた恥ずべき性向である。その最悪の事例だが、目を背けてなならないと思う。
(文:宮)