ミジンコが主人公の創作絵本なんて初めてだ。それも…出だしから思いもよらない展開が待ち構えている。いきなりミジンコ自身が自分の事をはじめミジンコについて語り始める。タイトルでなにげなくアピールしていたのは、自分で語るという伏線だったのか!「ございます。」と品位すら感じさせる優しい語り口に、ミジンコの育ちの良さを感じる。ミジンコによるミジンコストーリー。ついつい読者である私はへえーへえーと初めて知る世界に前のめりになり、自分も水の中にいるみたいな気持ちになっていく。水の中でミジンコ劇場を見ているようだ。
ミジンコと言う名前を知ったのは小学生の頃で、水の中に住む小さな生き物で体がすけすけの透明?半透明?な様子をしているというくらいの知識は持っていたが、それ以上の事は、実は何も知らないまま今に至る。身近な小さな生き物であるミジンコがこんなに面白い生き物だとは!山村浩二さんの描かれたミジンコの世界の面白さを含む美しさは、文章とあいまって存分に迫ってくる。私は一目でこの絵本に魅了されてしまった。ミジンコはこんな風に自分を描いてもらって嬉しいに違いない(想像だが…)。巻末には、絵本としては、めずらしい短い「あとがき」がある。それを読むと著者がどんな時にミジンコと出会いどんな気持ちになったのかがとてもよく伝わってくる。
大人目線でつらつらと書いてしまったけれど、私が感じたように、子どもたちも温かくて、心地よい文章と、透明感あふれる水とミジンコの絵をみて素直に面白いなあと思うのではないかと思うのである。
余談だが、この本を友人に勧めた時に、「ミジンコといえば…」とずっと昔読んだ対談(遠藤周作さんと坂田明さんの対談)の文章のことを教えてくれた。その対談でミジンコのすごさに感動して泣いたのだとか。結局その文章がどこに掲載されていたのか、私もその人も見つけられなかったのだけれど。でも坂田さんという人が、日本のジャズサックス奏者であり、タレントでもあり、ミジンコ研究家としても知られているという変った経歴の持ち主だと知った。調べてみるとエッセイやら、音楽関係のことやら、ミジンコについても何冊か本を書いている。ということは対談記事でなくとも同じような内容に触れられるかもしれないとミジンコに関する本を借りてきた。こちらはまだ、読んでいる最中なのだがこれがまたミジンコについての知識も深まりとても面白い。『ミジンコ道楽 その哲学と実践』(坂田明/著 講談社)とあるがエッセイのようなコラムのような調子で文章が書かれているので気軽に読むことができる。こちらもオススメだ。
(文:やぎ) |