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「この本おもしろかったよ!」
1ヶ月に約1冊のペースで朔北社出版部の3人がお気に入りの本を紹介。本のジャンルは様々なので「本を買う時の参考にしてくれればいいな。」という、ひそかな野望がつまっているコーナー。

。本のジャンルは様々なので「本を買う時の参考にしてくれればいいな。」という、ひそかな野望がつまっているコーナー。

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ナチスに挑戦した少年たち

フィリップ・フーズ/著 金原瑞人/訳

小学館

 作家のフィリップ・フーズは2001年にデンマークを旅行したときレジスタンス博物館に立ち寄った。そこで「チャーチルクラブ」の展示を見たことから、本書の物語が始まった。
第二次世界大戦中デンマークの中学生が、ナチスに対する抵抗運動を行ったという、実際にあった話である。第二次世界大戦のときイギリスの首相だったウィンストン・チャーチルはどんな苦しいときでも変わらずナチスドイツに徹底的に抵抗していたので、その勇敢な態度に憧れてデンマークの中学生は、自分たちのグループをチャーチルクラブと名付けた。
 中学生のレジスタンス運動に強い興味を持ったフィリップ・フーズはチャーチルクラブの生き残りの一人クヌーズ・ピーダスンと連絡をとったが、このときは先約があるといって協力を断られた。10年後に、作品の素材探しをしていたフィリップ・フーズが、過去の資料をみていたらチャーチルクラブのファイルが出てきた。しかしこのテーマで本は出ていないようなので、もう一度連絡してみたところ、今度は話を聴くことができることになった。1週間後にはデンマークに飛んで、クヌーズ・ピーダスンに会った。
チャーチルクラブの中学生のナチスに対する抵抗活動とやがて捕らえられて入獄してからの生活、更に戦後の人生が、クヌーズ・ピーダスンの話や関連する史料を駆使して描かれている。その中で、当時のデンマークの中学生がタバコを吸ったりかなり大人びた行動をしていることが面白い。
 同時に抵抗運動が戦争に関わるものなので、戦争について様々に考えさせられる物語になっている。翻訳者の金原瑞人さんは「あとがき」に「祖国の自由のために命をかける少年たちの堂々たる態度は強く心を打つが、同時にその無鉄砲さが恐ろしくもある。当時のデンマークの人々の反応もまた興味深い。戦争とはなんなのか、ファシズムの占領と弾圧に反抗すべきなのか服従すべきなのか。様々な問題が投げかけられる。」と書いている。
 中学生のレジスタンス運動がなぜ生れたかというと、デンマークは抵抗することなくナチス・ドイツの支配に服したが、隣国ノルウェーではノルウェー軍が祖国防衛のためにドイツ軍の侵攻に対して戦っていた。2ヶ月後にノルウェー軍は降伏するが、本書のデンマーク中学生はナチスドイツに抵抗せずに屈服した大人の態度に反発して、仲間を募って抵抗運動を展開した。交通標識を勝手にいじったりドイツ兵の武器を盗んだりから始め、いくつか放火事件、爆発事件をおこす。武器を盗んでも使い方もわからず隠すだけだ。子供の稚拙な抵抗だからやがて捕らえられるが、彼らの行動はその後の国内のレジスタンス運動の出発点となった。そしてドイツ敗北後は、中学生は英雄扱いされることになった。
 現代の中東地域のように十代の子どもたちが兵士にされたり無理やり結婚させられたりという子供を残酷に利用する行動がある一方で、自分の生活する社会を自分の目と耳で観察し考え行動する子どもたちも存在するだろう。チャーチルクラブの中学生は、自分たちの気持ちと判断によって行動した結果、英雄扱いされることになったわけであるが、そのことが彼らのその後の人生に善かれ悪しかれ大きな影響を及ぼした。
 最後に、本書を作家とテーマの関係が10年もの期間にまたがって、偶然の作用も会って作品に結実するということで興味を持って読んだことと、戦争と一般の人びと特に子供との関係を考える糸口を提供してくれる本だということを付記しておきたい。
(文:宮)