この著者の本で一番最初に読んだのは『はたらく動物と』という本だった。会社のツイッターでフォローしている書店や版元、個人が発信するタイムラインで時折目にし、表紙の絵がかもし出す雰囲気がなんとも味わい深く、手にとってみたくなった。そして実際に買って読んだらすっかり彼女の書く(描く)絵と言葉に心を動かされファンになってしまった。
他の本も読んでみたいなあと思うが、そうバンバンと本を購入できる金銭的余裕はない。そうこうするうち金井さんの『パリのすてきなおじさん』があちこちの書店で並んでいるのを見つけた。帯は豪勢にも4パターン!驚きとともに書店の目立つ場所に積まれているその本を見て天邪鬼な私は、これはいつでも買える本だと思い、次買うのはこの本以外と心に決めた。
なじみの書店に寄ると、ついこの間、金井さんの『はたらく動物と』の原画展とトークイベントが終わったばかり。イベントの名残である金井さんの本が何種類か別の棚に置かれていた。書店さんに聞くと「気さくで面白い方だったわよ~」とのこと。今日はここで金井さんの本を買って帰るぞと気合が入る。一番地味目な、書店で見つけにくそうだなと思われる『酒場學校の日々』を購入した。これがどうして最近の私の№1になるとはその時思いもしながった。読み始めたらもう色々なことがとにかく面白く胸がすーっと静かな喜びに満たされ…読み終えたのであった。
彼女が好きな詩人であり卒論のテーマとして選んだという、草野心平。彼が開いた「酒場學校」は一度閉校するのだが、再び新宿で開かれた。そこで、この店が閉店する最後の5年間の間、水曜日だけのママをつとめる事となった著者の金井さん。いろんな巡り合わせというのはあるものだ。そこでの日々、そこへ通う人々、そして人々との会話。彼女がそこに立ち、見てきたもの。ママとの会話から知ったこと…人が好きで、書くことがすき(たぶん)で、深いところにいるのにどこか客観的で。その書きっぷりには不思議な魅力を感じずにはいられない。もちろんそこに登場するママや、訪れる人々も実に魅力的。
本を読んでいて、私はこんな気持ちに満たされたことはなかった。本っていいなあという思いが湧き上がってきてとても嬉しかったのだ。そのあとに『世界はフムフムで満ちている
達人観察図鑑』も読み、つい最近は『パリのすてきなおじさん』も読み終わったところだが、益々、この人の文章が好きになっている。本人のホームページを見てもわかるように好奇心の塊みたいな人なんだろう。プロフィールにこうある。「1974年生まれ。作家、イラストレーター。任務は「多様性をおもしろがること」」なるほど。違うということで排除するのではなく面白がれるからこその聞き上手。ああ、この人になら話せるとみんな本能のどこかが感じているのかもしれない。そして面白がれるからこそ、人の本当に言いたいことを汲み取る力も備えているのだろう。もしも金井さんに興味を持ったら是非「うずまき堂マガジン」の「うずまき堂マガジンとは」も読んで見てほしい。https://uzumakido.com/about
(文:やぎ) |