子ども向けに読みやすく書かれている。しかし、全5巻で描かれている非暴力の人びとの伝記は、何を伝えようとしているのか?難しい政治問題、戦争や差別に対してどう立ち向かっていけばよいのかを、10人の人を通じて非暴力の立場があることを紹介している。アメリカとソ連が対峙した東西の冷戦終結から30年たった今日の世界は、歴史が100年ほど戻ったような、国家間、宗教間、民族間でむき出しの利害争いが展開される弱肉強食、暴力がまかり通る世界になってしまった。そんな世界に生きている子どもたちに、非暴力を訴え続け非暴力の行動を貫いた人びとの伝記が出版され始めたわけである。むき出しの暴力に対して非暴力、不服従がどこまで有効なのか?しかし、圧倒的な暴力支配に対して非暴力こそが人間らしい世界を取り戻すための唯一の方法、手段だということをこの本から読み取ることができる。
マハトマ・ガンディーは、イギリスで教育を受け、南アフリカで人種差別を嫌という程経験したあと、イギリスの植民地であるインドを独立させるために非暴力、不服従の戦いを主張し実行した。ガンディーの意思とは違って独立はインドとパキスタンに割れた形で行われたうえにガンディーは激しい対立の中で暗殺された。その後の歴史をみると、ひとたび暴力に訴えると暴力の連鎖を生んでなお大きな犠牲を出すことになり、非暴力の大切さがつよく印象に残る。
阿波根昌鴻は沖縄の伊江島で大戦後すぐにアメリカ軍のために住居、農地を奪われるなかで非暴力の立場から不屈の戦いを続けたひとである。沖縄とアメリカ軍の関係は、今日の辺野古問題まで変わることなく続く一方的な支配被支配の関係で、阿波根昌鴻のたたかいはその原点を鮮明に示している。
ガンディーも阿波根昌鴻も、具体的な状況のなかでどのように考え行動したのかが書かれていて、この本は二人の入門書としての役割を充分果たしている。
全5刊の構成はつぎのとおり
1 マハトマ・ガンディー
2 チャップリン パブロ・ピカソ
3 田中正造 ワンガリ・マータイ
4 キング牧師 ネルソン・マンデラ
5 平塚らいてう 萱野茂
(文:宮) |