せなけいこさんといえば有名な本が何冊かある。『ねないこだれだ』『いやだいやだ』(福音館書店)や『おばけのてんぷら』(ポプラ社)等は、多くの人が知っている絵本だろう。わたしは、ほぼ「いやだいやだの絵本シリーズ」が出た頃に生まれているので、一緒に育ったといってもいいくらい。せなさんの絵はちぎり絵、切り絵の手法を使って描かれている。身近なもので自分でも出来そうだがやってみると自在にはいかなさそうだ。子どもの頃には何も考えず読んでいたが、今見ると登場人物が一つ一つ個性を放っていてすごい存在感があるなあと思う。
この本の中で、せなさんは、自分の子どもを楽しませようとお話を作っていたことや、切り絵用の紙はどこかでもらった包み紙を捨てないで大切にためていてその柄の面白さや切り方ちぎり方でいろんな表現をしていたというお話が書かれている。その気に入った柄の紙で登場人物にぴったりの服をきせるときに、あとで着てる服が足りなくなると困るからちゃんととっておくのだそうだ。買う紙にはない面白さがいろんな包み紙にはあるようだ。
せなさんの子どもたちは悪いこととか、何かすると美化されることなく、そのまま自分が絵本になっちゃうから嫌だったそうだ。お姫さまにして描いてくれればいいけど、まずそんなことはないそうだ。息子さんが妹にこう言ったという。「いい子にしてないと、またママに本にされちゃいますよ!」って。こりゃ大変だ!と思ったに違いない。
以前、豊橋のある書店さんのイベントでゲストとしてせなけいこさんを招いてのワークショップとお話の会があり、その場に居合わせたことがあった。初めて見た、せなさんはベレー帽をかぶり、とてもこじんまりとした体に、まん丸の目をぱっちりと開いて、まばたきもせずちょっと不思議そうな顔をして座っていた。その姿は間違ってこんなところに来てしまったみたいにも見えた(本当はそうじゃなかったかもしれないけれど)。どこか違う世界からやってきたみたいに。
私はこの本の題名が好きだ。まるで自作の『ねないこだれだ』の答えみたいに思える本。そうか寝ない子は、せなさんだったのか、と思った。どこまでも自分の思う道をとことこと歩いてきたお母さん作家。本を読んでいると本物のせなさんに会って話しているみたいに感じた。たった120数ページほどの本の半分はせなさんの切り絵や仕事道具、下絵なんかの写真で構成されている。だけど短い文章の中にせなさんがちゃんと存在していて、こんな短い文章でもこんなに伝わるものなのだと長い文章をくどくどと書いてしまうタイプである私は感心してしまった。帯にあるように、ちゃーんと自伝的なのだ。すごいなあ。この本を読みながら、おばけ、動物たちが共生しているこの世の真ん中にせなさんは存在しているのではないだろうかとつくづく思うのであった。(文:やぎ) |