NHKのラジオ文芸館で聴いて、読みたくなった。ラジオ文芸館で現役の流行作家の短編だけでなく大家の作品を聴くこともある。私にとって面白いものもあり詰まらないものもあるのは言うまでもない。担当者の作品選択眼が問われるところだろうが、食事時の放送なので、よほど気に入らない作品でなければ聴きながら食事している。そして原作を読んでみたいと思ったのは久しぶりだ。短編集だからほかにも何編か収録されているが、表題作では放送の時の深い感銘がそのまま蘇った。仕事を通して知り合った男二人がお互いに相手を認めつつも決してある線以上には深入りしない。そういう淡泊なつき合い方もあると思うが、海外に転勤したと聞かされた男が実は亡くなっていた。それを以前同じ会社にいたという女性の訪問をうけて知らされる。男が実は広島で被爆していたという事実がバックにある。あらすじを書くとありきたりで、読後の深い感銘を伝えることは難しい。言えるのは、話も人物も地味で慎ましいところに作品の良さがあるということ。他の作品もその点では同じで、こういう作家が存在し、それなりに評価されているのに嬉しくなる。人間へのいとおしさを感じさせてくれる読後感、そのすがすがしさは、作風はまったく違うがピルチャーの短編集を思い起こさせた。(文:宮) |