たしろちさとさんの絵をはじめてみた時、わあ、何か伝わる絵だなあ、すごいなあと、ただただ思った。最初に見たのは『ぼくうまれるよ』(アリス館)。カバが水中で出産する様子描いた作品で、ひと目見て魅了された。一番話題になったのはおそらく、5匹のネズミたちのお話『おんがくかいのよる』(ほるぷ出版)だろうか?この本もいいが、たしろさんの本の中で一番好きなのは、実は企画も含めグランまま社から出ている、「Book of Sense Series」の『きこえる? きこえるよ』と、『くんくん、いいにおい』。
シリーズのタイトル通り、人の感覚、五感?を絵本にした幼年向けの絵本。見る、聞く、嗅ぐ、触る、味わうの5つの感覚を絵本で描く。シリーズはよく見てみたら5冊かとおもいきや4冊で、「見る」以外の4つについて描かれている。「触る」と「味わう」は別の人が描いている。
『きこえる? きこえるよ』は聴覚(聞く)の絵本。人は、まだ幼く、言葉をうまく使えないときでも、五感は常に働いている。聞く感覚を描いたこの絵本には文字がない。ただ、頁をひらくと音が聞こえてくる…?そんな気がするのはわたしだけではないはずだ。絵ってこんなこともできるのかあと関心してしまった。人は一度聞いたことのある音をこれはなんの音か、ちゃんと目と耳とを使って理解したり覚えたりするのだということがわかる。だからいきいきした絵からはちゃんと音がするのだろう。時計の音、料理する音、動物たちの鳴き声に、車の音、雨のふる音。様々な音に囲まれていきていることに気づく。子どもたちにとって生活の中の音はどんなふうに伝わっているのだろうか?あいにく、私にはすぐ側に、そういう存在がいないので、ハッキリとはわからないが、時折一緒になる姪や甥と一緒にいると、聞こえてきた音に反応する瞬間がある。ちゃんとこの音の正体をわかっているのだなあと思う。もちろん初めて聞く音もこれからたくさん覚えていくことだろう。
反応するという一番身近なものは声。聞きなれたお母さんやお父さんの声に反応するのがいい例だ。入り口から人が入ってくるガラッと扉を開く音、台所のお母さんの鼻歌。弟が泣く声、2階で誰かが歩く足音。人は生まれてからだんだんに音を覚え、音にどんなふうに対応してゆくかを自然に身につけていくんだなあと感じる。海外の絵本をみると絵だけの絵本が結構あるが、なぜか日本では絵だけの本はあまり売れないらしい(中には売れている本もあると思うが)。なぜだろう?でも、わたしは結構、絵だけの絵本が好きだ。文字がないから、絵から想像できるすべてを脳の中からひっぱりだしてきて…自分の今までの経験だったり、音だったりを想像しながら、いろんな感覚が開かれてゆく。受身でなく。だからほんとは絵だけの絵本ももっとたくさん出てもいいのになと思う。
この本から少し離れるが、たしろさんの絵のいいところは1枚の絵がただ1枚の独立した絵ではなく、次のページに自然に繋がっていく感じ…絵本とは、本来どの絵本もそういうものなんだろうけれど、それがとっても上手な人だなあとつくづく思う。そして、その絵はあったかくてずっとみていたくなる。(文:やぎ) |