本の題名に「じつは…」とつくタイトル。それも本棚のはなしとは…本を売る出版社の人なら誰もが気になってしまうのではないだろうか(そうとも限らないか)。表紙には表紙いっぱいに本棚が描かれ、その本棚からは、はりこの犬が顔を出している。そして本の中から出てきた様子のちいさな忍者や恐竜、河童や動物が棚のあたりをうろついている。もしもそんなことがおきたら面白いなあと思う。読み始めるとわかるのだが、彼らはいつでもうろついているわけではなく、夜になると出てくるというのだ(タイトルの通り!)。本の持ち主たちが寝静まった頃を見計らって。
子どもの頃、本から物語の登場人物たちが本の中から出てきたらどんなに楽しいだろうと思っていた。きっと私以外にも、そう思ったことのある人はいるのではないだろうか?この絵本にはそういう子どもの頃の「きぼう」が詰まっている(ように思う)。あの頃の私が読んだら、その夜、うす目をあけて本棚の様子を見てみようと企てるだろう。今だってそんなことが起こったら見てみたい。
わざわざ夜に出てくるのだから、もちろん人にみられちゃいけない内緒の話。悪いことの内緒は嫌なものだけれど、楽しい秘密を共有する「内緒」はなんだかわくわくする。夜が明けるまえに、物語の登場人物たちは、夜のお散歩や他の物語との交流をやめて自分の本に帰らなくてはならないのだけれど、みんなちゃんと自分の本の中にもどれるのか?????最後の一人が本に戻るまで見守る番人(番犬)「こたろう」は頼りにならなさそうで頼りになる。彼がいなければ本棚は無法地帯と化するかもしれない。
個性豊かな挿絵たちだから、最後まで気が抜けずドキドキする。それでいて読者に迷子捜しの協力もさせてくれたりして、向こうは本から出てきたと思えば、こちらは本の中に入らせてもらっているような気分もあり、本を通じていろんなものとの夢の共演ができるのが面白い。本って出入り自由なものなんだと気づくことができるのもこの絵本の魅力だろう。画面いっぱいに広がる世界。どの頁もびっしり描かれ見るとこいっぱいだ。
あまりに気に入ったので、この作家さんのほか作品もみてみたいと思ったらまだそんなにたくさんは出していないよう。これからどんな作品を作っていってくれるのだろう。楽しみだなあ。最近読んだ絵本の中で秘かに私の一番星だ。(文:やぎ) |