現在中東が世界中の耳目集め、IS(イスラム国)のテロは連日マスコミを賑わせている。今日のイラク、シリアの歴史は第1次世界大戦のさなかに始まったと言うことができるだろう。つまりT.E.ロレンスが活躍した時代と場所で始まった。100年前の戦争とその結末の付け方が今日の動乱と悲劇の原因だとも言える。デヴィッド・リーンの映画は大ヒットしたし、「アラビアのロレンス」も一躍有名になった。そして本で「アラビアのロレンス」を知るのに、今もってもっとも手に取りやすく安心して読めるのは中野好夫の本書ではなかろうか。さまざまな登場人物を書き分けるのに必要な歴史の素養と見識においておそらく中野さんの右にでるものはない。通読して、そのことを改めて実感した。この評価が間違いでないのは、本書が2013年に復刊されたことからもわかる。初版は昭和15(1940)年に、改訂版は昭和38(1963)年に出ている。この改訂版が復刊され、現在も版元の岩波書店に在庫していて注文することができるわけだ。ロングセラーの最たるものである。本書をめぐる状況をみると、昭和38年にはロレンスの著作『知恵の7柱』の簡約普及版の翻訳はまだ出ていなかったし、オックスフォードテキストと呼ばれる英語の完全版は1997年にようやく刊行され、日本アラビアのロレンス語訳の刊行が完結したのは2009年である。そして、これらの著作を読むにつけても、中野さんのロレンスはよくできた本だと思うのである。(文:宮) |