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「この本おもしろかったよ!」
1ケ月に約2冊のペースで朔北社の社長である宮本のお気に入りの本を紹介。本のジャンルは様々なので「本を買う時の参考にしてくれればいいな。」という、ひそかな野望がつまっているコーナー。

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荒廃する世界のなかで これからの「社会民主主義」を語ろう


トニー・ジャット/著

みすず書房


長年疑問に思っていたことに、答えてくれた本だ。疑問というのはつぎのことである。たぶんサッチャー首相や、レーガン大統領の時代にはじまり、日本では中曽根首相が、先鞭をつけた、国有事業・公営企業の民営化、さまざまな規制緩和で、要するに民間の活力、効率的運営に期待する政策である。そこでは小さい政府が目標とされていた。(きわめて非能率な国公営企業にうんざりしていた人々は拍手喝采したはずだ。)そして先進諸国では、規制緩和と企業活動のグローバル化が連動して、金融危機が繰り返された。気がついてみると、資本主義の原理主義とでも言うべき事態が世界中を覆っていた。今日むきだしの資本の論理が世界を支配している。私の理解では、資本主義は、19世紀後半以来、社会主義思想・運動の存在・影響もあって、その欠陥を100年以上かけて矯めてきたはずだった。ケインズの名前とともに、いわゆる修正資本主義が成立していたはずである。ここのところが、つまり修正資本主義が、あっさり、むき出しの資本主義つまり100年以上前の状態に戻ってしまったのは何故なのかというのが私の疑問である。
トニー・ジャット『荒廃する世界のなかで これからの「社会民主主義」を語ろう』は、この問題に、いろいろな角度から答えている。経済学者の説明を聞きたかったが、やはり歴史家でなければ解けない問題なのだろうか。ちなみにジャットの本ではケインズが繰り返しでてくるが、それは私にとって至極納得できることである。歴史の教訓をどのように生かすことが出来るのかは大きな問題で、現代の金融危機に対しては、1929年の大恐慌経験が生かされているようだが、福祉国家やケインズの修正資本主義はあっさり捨て去られたらしい。またこのような政策を理論的に支えたのはオーストリアから亡命したハイエクらの経済学者だった。亡命から40〜50年たったときに、左右の全体主義に真っ向から反対する彼等の理論が世界中を支配することになった。しかしその結果、全体主義が出現する危険をはらんだ世界が作り出されたのは皮肉である。ともあれ彼等を批判する議論を私は、経済学者ではなく歴史家ジャットから聞くことになった。今日の世界を動かしてきたクリントン、ブレアといった政治家が批判され、イギリス議会の体たらくが200年前の議会の惨状に対比して論及されている。それを考えれば、日本の国会の行き詰まりもむべなるかな。要するに経済といい、政治といい、先進諸国に共通した現象が出現しているし、また苦しんでいるわけである。
本書の紹介としては、1月16日の朝日新聞に掲載された姜尚中の書評が、簡にして要をえたものである。(文:宮)