老朽化し不便なところにある障害児施設「湖学園(みずうみがくえん)」を街なかに移転させるために「抱きしめてBIWAKO」が計画された。琵琶湖を25万人が手をつないで囲むという壮大なイベントで、「正午から1分間琵琶湖岸1メートルのオーナーになってほしい、。そのときその場所を千円で買ってほしい。1分間がおわったら参加者の手にはなにも残りません。でもそのときから湖学園の引っ越しが始まるのです」という話であるが、この物語は、新たに児童養護施設「南学園」でくらすことになった少女秋山咲の物語でもある。はじめのうち新しい環境になじめなくて、自分ひとりを置いてきぼりにした姉を恨んで、必死の思いでつっぱって暮らしている咲が、「抱きしめてBIWAKO」の実現にむかって養護施設の職員石井真と、おなじ施設にくらす友美と3人で琵琶湖の周囲を調べながら軽自動車でぐるりと回る。この調査旅行は、「抱きしめてBIWAKO」のためにとても役立つ情報をもたらしただけでなく、咲と友美の心を開き、むすびつける。こんな大規模なイベントは実現するまで沢山の障害に出会う。計画を始めた人たちの意見が食い違い仲たがいして、計画の実現が怪しくなるほどまでになる。この本はそのような状態から、どうやって計画を助け出し実現させたかを、現実の社会に対するバランス感覚をもって実に巧みに書いている。社会的な行動とはどういうものなのかを「抱きしめてBIWAKO」を実例にして教えてくれる。
子どもの読み物として書かれたと思うが、大人が読んでなるほどと納得するし、学ぶことのできる、物語でもある。そしてイベント前日におきた団体参加者の突然のキャンセルに、みなたいへん驚き、落胆させられるが、関係者だけでなくて、咲をはじめ南学園の子どもたちまでがイベント成功のために徹夜でがんばる。ここなど、息をつかせないスピード感ある文章で、読者が手に汗握る、迫力ある山場になっている。(文:宮) |