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「この本おもしろかったよ!」
1ケ月に約2冊のペースで朔北社の社長である宮本のお気に入りの本を紹介。本のジャンルは様々なので「本を買う時の参考にしてくれればいいな。」という、ひそかな野望がつまっているコーナー。たまに他の社員も飛び入り参加します。

【紹介した書籍に興味をお持ちの方へ】 この本は朔北社の出版物ではありませんので、出版状況等に関しましては、お近くの書店、あるいは各出版社にお問い合わせ下さい。

たそがれ団地物語
ふたご桜のひみつ


たから しげる/作  こころ 美保子/絵

岩崎書店


春休みに仙台から引っ越してきた、小学5年生の北里優人が住み始めたのは中央線N駅から歩いて10分ほどの、14階建てマンションの11階である。そのマンションとN駅にはさまれて、本書の舞台である古い団地がある。昭和30年代に建築された古い団地と、最近作られた高層マンションというとりあわせは、いま、東京のあちこちで目にする景色だ。古い団地には年老いたおじいさん、おばあさんが現在もすんでいるが、住むひとのいなくなった空き部屋もおおい。この古い団地を探検にでかけて、優人は不思議な少女と花村さんというおばあさんにであい、ふたご桜のひみつにふれることになった。

東京のいまが舞台だが、さびれた団地のむかしの住人といまの住人の生活をとおして、ひとびとが背負っている歴史が見えてくる。優人をはさんんだこれらのひとびとのはたらきで、再びみごとな花をいっぱい咲かせた、ふたご桜のしたでのお花見で幕がおりる。

作者のたしかな表現、文章の力によって、主人公優人の単純な冒険物語としてじゅうぶん楽しめる。いっぽう、この物語をおとながよむと、昭和30年代のなつかしさあふれる生活を思い出すにちがいない。そして、いずれにせよ気持ちのよい読後感が心にのこるのである。(文:宮)