春休みに仙台から引っ越してきた、小学5年生の北里優人が住み始めたのは中央線N駅から歩いて10分ほどの、14階建てマンションの11階である。そのマンションとN駅にはさまれて、本書の舞台である古い団地がある。昭和30年代に建築された古い団地と、最近作られた高層マンションというとりあわせは、いま、東京のあちこちで目にする景色だ。古い団地には年老いたおじいさん、おばあさんが現在もすんでいるが、住むひとのいなくなった空き部屋もおおい。この古い団地を探検にでかけて、優人は不思議な少女と花村さんというおばあさんにであい、ふたご桜のひみつにふれることになった。
東京のいまが舞台だが、さびれた団地のむかしの住人といまの住人の生活をとおして、ひとびとが背負っている歴史が見えてくる。優人をはさんんだこれらのひとびとのはたらきで、再びみごとな花をいっぱい咲かせた、ふたご桜のしたでのお花見で幕がおりる。
作者のたしかな表現、文章の力によって、主人公優人の単純な冒険物語としてじゅうぶん楽しめる。いっぽう、この物語をおとながよむと、昭和30年代のなつかしさあふれる生活を思い出すにちがいない。そして、いずれにせよ気持ちのよい読後感が心にのこるのである。(文:宮) |