高島俊男さんの初めての本だから35才の時の作品である。だが高島さんに特徴的な引き締まって、わかりやすい文体はすでにこのときに完全に出来上がっている。作品は別にして、新聞の書評で指摘していたように、李白と杜甫についてまず読むべき本だということが十分納得できる優れた詩人論である。膨大な量の詩を熟読することによって掴み出された二人の実人生が鮮やかに造形されている。詩の読解と言うことが人間心理についての理解といかに強く結びついているかがよく分かる。本書は高島さんが人間心理解剖の達人であることを知らせている。李白、杜甫の二人とも方向は違うが、実人生では、望んでいた地位や活動を手に入れることは出来なかった、つまり人生の失敗者であったがゆえに、偉大な詩人たりえたという逆説があきらかにされている。本書でもうひとつ気づいたことは漢文訓読の力である。高島さんが主張するように外国語として中国語をとらえ、翻訳で味わえばいいわけだろうが、高島さんの自在な訳詩をもってしても、たいがいの詩を読んでみて、漢文訓読特有の調子に敵わない気がするのだ。(文:宮) |