アメリカ人が日本語で書いた本だが、講談社エッセイ賞を受賞した作品である。
日本語をめぐる話題が多く、その多くが、日本語と英語の発想のちがいに、するどく反応している。だが、著者はさらにもう一歩踏み込んで、文化のちがいに筆が及ぶ。クシャミをしたときに、英語では“Bless you”という慣用句でそばにいる人がフォローする。日本ではそういう風習はないが、沖縄に行ったら、「クスクェーヒャー」というフォローをする言い方があった。そして、その意味が、クシャミを起こさせた魔物に対しての脅かし、風邪を吹き飛ばすためのマジナイであった。ということは Bless you と発想は同じなのだ、と。このような言葉をめぐっての、感性の高いエッセイが大半を占め、次から次へと読み進みたくなる本である。
翻訳をめぐるエッセイも興味深い。誤訳の指摘は改めて、翻訳の難しさを教えてくれる。芭蕉の「しずかさや 岩にしみ入る せみの声」の英訳の話はその典型である。
もうひとつ、この本の読み所は、感受性豊かな著者を育てた郷土アメリカの家族の話で、たとえば、戦争についての著者の祖父の言葉。戦争が正しい戦争か、そうでないかを考えるときに、その戦争が、どこで戦われているかを考えれば、わかるということ。声高に戦争反対を言っているわけではないが、ここには戦争についての庶民の健康な感覚が見事に書き現わされている。(文:宮) |