「この本おもしろかったよ!」

アーカイブス

1ケ月に約2冊のペースで朔北社の社長である宮本のお気に入りの本を紹介。本のジャンルは様々なので「本を買う時の参考にしてくれればいいな。」という、ひそかな野望がつまっているコーナー。

【紹介した書籍に興味をお持ちの方へ】 この本は朔北社の出版物ではありませんので、出版状況等に関しましては、お近くの書店、あるいは各出版社にお問い合わせ下さい。

ピアニストその人生 ピアニストその人生


園田高弘/著

春秋社


 園田さんの遺稿集である。内容は日経新聞の「私の履歴書」の16時間におやぶインタビューの速記録から起こした原稿と、以前みすず書房から出た「音楽の旅−−ヨーロッパ演奏記」の前半を抜粋・再構成したものである。
日本人の優れた演奏家の伝記はこれまでも書かれているが、私の読んだもののなかでは、本書は格別におもしろい。自伝ということがそのような読後感に寄与しているかもしれないが、これは園田さんの人柄の功績だろう。
とりわけ1950年代に若い細君とともに、マネージャーとの関係をつくりながら、慣れない演奏家活動に踏み出していくあたりは、戦後まもないころの竿能ある日本人が世界各地で苦労しながらキャリアを築いていく姿を想起させる。
音楽関係者など知る人ぞ知ることなのだろうが、1951年にさまざまなジャンルの芸術家とともに「実験工房」に参加したことや、ピアニストとしては決してベートーヴェン弾きに止まらないことなど旺盛な好奇心、行動力を知ることが出来る。
また、園田さんの音楽観を作り上げる上で、チェリビダッケとの交流には興味深いものがある。対照的にカラヤンとの関係、あるいはカラヤン観はプラスに評価すべきところはそれとして認めつつも、批判的に傾いている。
園田さんは、豊富なレパートリーを持っている人だが、コンサートのまえに準備する時間がない状況のなかでどのように演奏を仕上げていくのかが具体的に書かれていて、おもしろかった。演奏後、どこかの音符を飛ばしてしまったとか本人にしか判らないようなことを正直に書いている。(文:宮)