1965年3月に人類として初めて宇宙遊泳したソ連の宇宙飛行士アレクセイ・レオーノフと、1971年8月にアポロ15号で月面に到着、3日間を過したアメリカの宇宙飛行士デイヴィッド・スコットが、協力して書いた、宇宙開発にかかわった人々の物語である。
2人とも第一級の戦闘機乗りで、やがて宇宙飛行士になるが、月並な「第一級の」ではあらわせない職人芸的操縦感覚と、豊富な飛行経験をもっていて、初めて困難な宇宙開発の一員として活躍できたのだということがよくわかる。
40年前程のことだから、コンピュータひとつとってもその技術レベルは今日とは比較にならないものだったにもかかわらず、米ソ両国は,政治的威信をかけて、あえて危険を冒しての宇宙開発にしのぎを削る。したがって、その途中で多くの犠牲者が出ており、2人が生き残れたのも、パイロットとしての伎倆もさることながら、幸運にめぐまれたことが大きい。
本書は、子供時代から書き始められており、2人の文章がひとくぎりづつ交互に出てくるが、すこしも違和感がなく、時間を追って読めるように、編集されている。当前のことだが、我々が新聞やテレビで見てきた出来事の裏に幾多の生々しい、人間の諸活動があったことがよくわかる。
初めのうちリードしていたソ連が、やがてアメリカに追い抜かれ、ついに月面到着を断念するが、その原因のひとつとして、レオーノフはソ連宇宙開発の中心人物コロリョフが亡くなったことが大きいと言っている。アメリカにはフォン・ブラウンがいたし、当時の宇宙開発競争ではまだまだ個人の能力に依存する所が大きかった。
書きぶりは、たんたんとしていて、好感がもてる。決して興奮して書きとばしたりしていない。にもかかわらず、本書の圧巻は、やはりスコットの月面における3日間の記録である。行動の記録であるが、月世界から地球をながめる経験をした者のみが持つことになった、表現しがたい感動が自ずと読者に伝わってくる。(文:宮) |