目次をみると、オペラの誕生から今日に至る変容を、バロック・オペラ、モーツアルト、グランド・オペラ、国民オペラ、ワーグナー以降と整理している。時間の経過を、オペラと社会との関連でたどれば、このようになるのだろうし、格別変わったところもなさそうだ。しかし、本書を読むと、オペラの歴史ではあっても、作品をとりあげてのそれではない。必要があれば作品名があげられているが、それは著者の大胆な単純化を説明するための材料としてである。
したがって、個々の作曲家や作品についてはきわめて短くしか触れていない。多少例外的にスペースを割いているのはモーツアルトについてで、著者は、モーツアルトが悪党やドジな役には真実味あふれる魅力的な音楽を書いているが、善玉に対しては平板な魅力の乏しい音楽をつけたといっている。これは私には音楽の問題であるより、台本のせいだと思われる。「ドン・ジョヴァンニ」のドン・オッターヴィオなど、まことに魅力のない人物だと思うので。しかし音楽はすばらしい。
いずれにせよ、モーツアルトのオペラ・ブッファについての章や、国民オペラ論、パリの持っていた大きな位置など、次々に興味津々の話題が展開されていく。
とにかく一読すれば、オペラの歴史がまことに見通しよく、社会的変容(絶対王政から、ブルジョワジーの台頭、大衆社会の出現まで)と関連づけられて頭に入ってくる。
オペラの歴史的な変化について、著者の見解に同意できなくとも、今日のオペラがおかれている状況や、今後の運命を考える糸口を示してくれる有益な本である。(文:宮) |