「この本おもしろかったよ!」

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1ケ月に約2冊のペースで朔北社の社長である宮本と出版部員のお気に入りの本を紹介。本のジャンルは様々なので「本を買う時の参考にしてくれればいいな。」という、ひそかな野望がつまっているコーナー。

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「どこにいようと、そこがドイツだ」 「どこにいようと、そこがドイツだ」
板東俘虜収容所入門

鳴門市ドイツ館史料研究会/執筆編集

鳴門市発行

 鳴門市ドイツ館のガイドブックである。
 鳴門市ドイツ館というのは、第1次世界大戦中に青島から連れてこられた約5000人のドイツ人捕虜のうちの約1000人を収容していた「板東俘虜収容所」の跡地に建てられた記念館である。捕虜収容所の跡地に現地の日本人とドイツ人捕虜の友好的な交流を記念した博物館ができたというのは普通ではない。アウシュヴィッツや南京大虐殺の記念館とはその性格が丸でちがう。八十年ほど前の日独両国人の交流の始まりから今日まで続く友好関係をコンパクトに伝えてくれるガイドブックである。我々にとっては『第九「初めて」物語』の舞台として熟知している場所だが、第九交響曲以外にも記憶にとどめるに価する沢山の出来事があり、その概要を知ることができる。
 今年6月にはこの物語をとりあげた映画「バルトの楽園」が公開されることになっており、地元では映画製作に全面協力しているそうだが、その実像を知るためにもコンパクトな本書が親しみやすく、有益な情報を沢山伝えてくれる。
 収容所長の松江豊寿陸軍大佐をめぐる話は実に興味深いが、捕虜収容所といっても、いろんなものを作ったり売ったりする店や工場があり、新聞が発行され、コンサートが開かれていたのだから驚く。ベートーヴェンの第九は、実はこの収容所で日本初演された。
 捕虜を人道的に遇したのは松江の考えによるところが大きい。陸軍上層部に逆らってまでドイツ人捕虜を厚遇したのは、戊辰戦争で官軍にとことん痛めつけられた会津藩出身の松江が、敗者の心理・立場を斟酌した結果だといわれている。(文:宮)

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