本書は1983年にパリで出版され、1987年に翻訳出版された。ロシアのチェロ奏者、ムスチスラフ・ロストロポーヴィチとその妻でソプラノのガリーナ・ヴィシネフスカヤをインタビューして作られた本である。私は本書の前にガリーナ・ヴィシネフスカヤの「ガリーナ自伝」を読み、いたく感銘を受けたあとで、いやます好奇心と同時に、インタビューで「ガリーナ自伝」の密度の濃い面白さが味わえるのかという多少の不安をもって本書を読み始めた。
本書は「ガリーナ自伝」に違和感なく続く形で読むことができ、2人の音楽家の人生と、ロシアの音楽について簡潔に語ってくれた。本書のヴィシネフスカヤは2冊の本の訳者が別人であるにもかかわらず、いまにも声が聞こえてくるような個性を感じさせる口調で同じ本の別の場所というしかなような同一の調子で話している。偉大な音楽家、演奏家としての2人のインタビューは話題が音楽だけだったとしても、興味のつきない読物になっている。ロストロポーヴィチのとどまることを知らぬような音楽談義は時の経つのを忘れさせる面白さがある
ソルジェニーツィンに生活の場所を提供してからの2人に対する迫害は、それまで他のロシア人同様非政治的人間として生きてきた2人をいやおうなく政治的にしていく。このあたりのことは本書ではわりあいあっさりと語られているが、ガリーナ自伝ではより詳細に記録されている
ソルジュニーツィンが「イワン・デニーソヴィチの一日」で出てきたとき、すぐにドストエフスキーやトルストイを連想したが、ロシア革命以来七十余年にわたる共産党独裁政治の中で、ロシア人が生きている姿は、本書によって2人の音楽家の波瀾に富んだ人生を通して、19世紀以来連結として続けられてきたのだということがわかる。
読み終わったあとの、こうしたもろもろの感想もさることながら、ロストロポーヴィチの音楽談義を存分に読んだあとでは、語られている音楽のかずかずを猛烈に聞きたくなるのである。(文:宮) |