「この本おもしろかったよ!」

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1ケ月に約2冊のペースで朔北社の社長である宮本と出版部員のお気に入りの本を紹介。本のジャンルは様々なので「本を買う時の参考にしてくれればいいな。」という、ひそかな野望がつまっているコーナー。

【紹介した書籍に興味をお持ちの方へ】 この本は朔北社の出版物ではありませんので、出版状況等に関しましては、お近くの書店、あるいは各出版社にお問い合わせ下さい。

ラッキーパールズ ラッキーパールズ

たからしげる/著

スパイス

 この数年に「闇王の街」や「落ちてきた時間」など、子供のためのファンタジーで読者を一気に物語世界にひきこむストーリーと、たしかな描写力で注目されている著者の、読者を子供と限定せずに、また初めてのファンタジーを離れた作品ということなので、期待して読み始めた。
 2年前に知り合った、取引先の会社専務阿久津さんが突然亡くなり、その通夜の帰りから物語は始まる。物語の主人公と亡くなった人はともに56才になるところで、早すぎる死のことなど、あれこれと思いにひたっているとき、突然、なくなった阿久津さんが、子供時代の野球チームの対戦相手だったチームの一員であったことを思い出した。
 ここから子供時代の野球チーム「ラッキーパールズ」のこと、メンバーのひとりひとりのことや、その家族のこと、もちろん自分自身の家族のことなどの回想をおりまぜながら、対戦相手だった「キングズ」との試合の成り行きが丁寧に物語られる。
 いま、昭和30年代がノスタルジックに注目されているが、この本では、回想の中で子供時代を過ごした昭和34年の東京中野の生活風景と、白熱した野球の試合が詳細に描写される。
 物語は、これまで練達の冴えをみせてきた著者の、児童物語作家としての力量が存分に発揮されていて、一気に読み進んでしまう。
 ただ、56才になろうとしている主人公の回想という形で書かれる必要があったのかどうか、児童物語と考えると余分なものがついている感じがするし、児童物語という見方をやめて、作品自体のことを考えると、子供の世界が練達の描写で描かれているその分、大人の小説としては書き足りないものがあるような気がする。(文:宮)