本書には「山田風太郎奇想コレクション」という副書名がついているが、内容は第二次大戦中に題材をとった戦争ミステリ7篇が収められている。
戦争中の話だが「奇想」と言われるにふさわしい、とてつもなく異常な世界が展開している。
しかも、瀬戸内海における戦艦陸奥爆沈事件や、アナタハン島事件など、実際に起きた事件に拠った作品群である。維新物にも共通する史実とフィクションを巧みに組み合わせた短篇群である。
解説中の一文をかりれば「主人公たちは恋を失い、生きる希望を消失する。性欲にもだえる。飢餓に震える。血に飢える。そして人を殺し、人間さえむさぼり喰うのである。要するに日本の失墜に合わせて、この物語の主人公たちは人間性を失って行くのである。」
いずれも戦争末期から敗戦直後までの時代に想像をこえた事件の渦中に立たされた主人公たちの凄惨というしかない物語であるが、残酷描写自体を目的としているわけではないので読後感はわりとサッパリしている。極限状態におかれた人間の姿を凝視し、いまとなっては理解をこえた所もある戦争をめぐる組織と人間の動き、関係を醒めた目で描いている。(文:宮) |