いろんな人の面白い作品を読みたいと思い、たまに適当に名前は知っているが、読んだことのない作家のものを文庫で買う。その時に買った一冊が村山由佳のこの本だった。染織家の主人公の恋愛をはらんだ物語だ。
舞台は身近な場所でもある吉祥寺と、私が最近、最も気になる外国、アフリカ。主人公の飛鳥は、壁が崩壊した日ベルリンにいた。あまりの騒ぎにホテルでじっとしていられない。その壁を見に外へ出た飛鳥は日本人の男性と出会う。初めて会うのにどこか懐かしい。もちろん男性の方も同じようになにかを感じる。自分の生活の中でそんなことが起こるような気はしないのだが、世の中にはそういうことが本当にあることも実は信じている私である。魂が揺さぶられるような出会いや瞬間は実際あると思う。本を読んでいると思ってしまう本と、ついついその場所に自分も身を置いているような、その世界の色や、香り、雰囲気の中に吸い込まれていくような気持ちにさせるものとがあるのだが、本書はまさに後者だ。
この後、他の作品を何冊も読みたくなってしまい購入した。こういう場合でも同じ作者の2冊目は自分に合わないものもあるのだが、彼女のものはどれにもがっかりさせられることがなかった。どれも恋愛のストーリー。中身はそれぞれ違うのだが、香りや、その場にいるような読ませる?飛ばせる(その場所に)感じがどれにもあてはまるのだった。しかしその中でも特に相性が良かったのか他の作品を読んでもまたこの作品に戻ってきてしまった(3度も読み返してしまった)なあと思ったのが本書だ。たぶん相性なのだろうと思うのだが、人にはその人の中でぴたりと留まる言葉や、本、人が一生のうちいくつか見つかるのだと思う。こういう気持ちは人に押しつけるものではなく自分自身で感じるものなのだろう。目の前の日常、等身大の女性の生き方、恋、そしてアフリカという土地と、さまざまな風を感じることのできる1冊だ。そういえば彼女が、第6回小説すばる新人賞を受賞した作品「天使の卵」は2006年春頃公開予定らしい。(文:やぎ) |