ロバート・B・パーカーのスペンサー・シリーズの文庫版最新版である。本書を久しぶりで読んだ。
このシリーズには定評のある「初秋」のような佳篇があり、他方ホークと大あばれする活劇篇もある。しかし、シリーズ後半は両者が融合し、ホークとの荒唐無稽なアクションはかなり抑えられている。
本書の英語原版は1999年に刊行され、同年すぐ日本語に翻訳され、本年2005年7月に文庫化された。シリーズ26作目である。
解説によると、シリーズ最新作は2004年に刊行された「背信」で31作目になる同書にあっても、主人公であるスペンサーは恋人のスーザン・シルヴァマンを手放しに賞賛し続けているそうだ。
本書「沈黙」でも、スペンサーは美人の抗がいがたい誘惑に対して、スーザンのことを片時も忘れることなく、我が身を守るのである。こう言うと主人公が道学者めいてみえるが、2人の関係は、今日の風俗の一部をなしているにちがいない新しさを持っているのは間違いない。
このシリーズの面白さは何より、スペンサーとスーザンの会話にあるが、それが途中一時的に破れたことはあるが、ともかく30年の長きにわたって、男の女に対する初々しい、ベタ惚れの心情が基底にあってのことなのだから、かなり珍しい小説といえよう。(文:宮) |