本田靖春が亡くなったあといくつかの追悼記事を読み、本田靖春という人が気になって、とりあえず文庫で読めるこの本が何をテーマにしたものか全く知られずに読み始めた。
昭和三十年代初期の売春汚職にからんで、スクープをものにした立松和博が名誉毀損で逮捕され、あげくに懲戒休職となり失意のうちに死に至るまでを描いている。
一人の敏腕社会部記者の生涯を描きながら、企業組織としての新聞社の体質を批判し、戦前以来の検察当局の人事抗争(派閥内の対立)の長いプロセスとからませて、波にのみここまれていく悲劇を作品にしている。かさかさしたノンフィクションではなくて、温かい血が通っている人間たちの交流と挫折、死を描いた一篇の文学作品というのが読後の感想である。
いつの時代にも、人間世界には喜怒哀楽を伴った人生がある。どんな極限状態におかれても、そこに人が生きていれば、人と人が織りなす関係があり、ひとつの世界が作りあげられる。それを描いた作品である。(文:宮) |