副書名にある通り荒俣宏の博物学入門というのが本書の内容を最も適切にあらわしている。
本書は現在の植物学や動物学が200余年前にリンネやビュフォンによって築きあげられた近代的自然史(ナチュラル・ヒストリー)から大きく花ひらいた新しい知の体系であるという言明から始まっている。
リンネ以来の自然探求のあとをヨーロッパ各地にたどり、そのあとで同時代の日本における博物学的探求の展開をたどっている。そして、最後の章は南方熊楠で、近代科学とは全く異なる事象の全体像を探求する営為の今日における意味を提起することで、本書をしめくくっている。
人間の持続的知的探求のエネルギーとその結果として残された膨大な収集物や図譜などの記述は読書をあきさせない。博物学の面白さを改めて印象づける。このような人間の一典型を、われわれは南方熊楠に見ることができる。
フィールドワークを尊重する博物学の方法にふれて、「あとがき」で、今井錦司や川喜田二郎が「地球観測年」という用語に反対であったこと、また探検でなく探険であるといっていたことなど、興味のつきないエピソードがつまっている。(文:宮) |