「この本おもしろかったよ!」

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1ケ月に約2冊のペースで朔北社の社長である宮本と出版部員のお気に入りの本を紹介。本のジャンルは様々なので「本を買う時の参考にしてくれればいいな。」という、ひそかな野望がつまっているコーナー。

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純情無頼 小説阪東妻三郎 純情無頼 小説阪東妻三郎

高橋治/著

文藝春秋
(文春文庫)

 私と同年輩の人なら阪妻として知っているし、もっと若い人ならば田村正和の父親といえばいいか、映画俳優阪東妻三郎の伝記である。伝記というよりは、阪妻がかかわった作品や映画製作の世界を、印象的なエピソードを通して描き、結果として映画俳優としての阪妻を活写している。
 さまざまなエピソードによって描かれている阪妻はタイトルにあるように、純情にして無頼なる俳優としての行状である。
 映画俳優として認められるまで、下積みの苦労を重ねてきた阪妻は、めぐまれた環境に生まれ生きてきただけで、トップに登りつめるような俳優を、すなおに容認できず、監督や撮影所幹部との間にやっかいなトラブルをまきおこした。このような阪妻は左翼思想にひかれて、単なる剣戟映画でなく「傾向映画」に出演し、自ら作ったりもした。阪妻の書棚には左翼関係の本が沢山収蔵されていたそうだ。
 「雄呂血」だとか「討たるゝ者」「墓石が鼾をする頃」「魔保露詩」などが、その種の映画だが、「雄呂血」は高い評価を受け興行的にも成功した。
 もともと「無頼漢(ならずもの)」というタイトルになるはずの「雄呂血」が当ったために、二匹目のどじょうをねらって「強狸羅(ごりら)」「努苦呂(どくろ)」「魔保露詩(まぼろし)」などが作られた。このあたりは、古くさい時代劇映画のイメージではなくて、映画草創期の活気、活力を感じさせるエピソードであり、タイトルであるといえよう。
 「雄呂血」で20分にも及ぶ殺陣シーンで有名になったにもかかわらず、阪妻は殺陣のない時代物を作ろうとしたり、行動はユニークである。著者が言うように阪妻の名前を今に残している作品は「雄呂血」を別にすれば、「武法松の一生」や「破れ太鼓」「王将」など、現代物であるのも面白い。
 半端でない放蕩生活や多彩な女性関係などもあって、この小さな本で阪妻の全貌をつかむことはできないが、娯楽映画に徹していた嵐寛寿郎、嵐寛(あらかん)などとは随分ちがう俳優人生だったように見える。今なら若すぎる51才でなくなったのは残念だが、著者の友人でもある長男の田村高廣のことを点綴させて、阪妻のことを多面的に描き出している。
 阪妻の映画を見たくなった。(文:宮)