岩倉使節団というのは、岩倉具視、大久保利通、木戸孝充、伊藤博文ら、成立後間もない明治新政府の主要メンバーによる、アメリカ、ヨーロッパ視察旅行団である。
足かけ3年(実質2年弱)の長きにわったて、アメリカ、イギリス、フランス、ベルギー、オランダ、ドイツ、ロシア、デンマーク、スウェーデン、イタリア、スイスを訪問し、帰途、セイロン、シンガポール、香港、上海を経由して、横浜に帰着した大旅行を敢行した。
帝国主義華やかなりし時代に長期間政府をあえて留守にして、国家建設の道を探るべく出かけたわけで、長いときには1カ所に数ヶ月も滞在していて、視察旅行とはいっても、表面的な観察にとどまるものではなかった。
岩倉使節団の記録としては、久米邦武編『米欧回覧実記』があり、今日では岩波文庫の5巻本で読むことができる。本書、『岩倉使節団という冒険』は、いわば原本のエッセンスを集めたものといえる。この種のものはややもすると薄味になりがちだが、本書はちがう。著者は8年かけて、使節団の足跡を訪ねるという熱心さをもって、行く先々でどんな接待を受け、どこの何を見、何を感じ、今を考えたか、久米の『実記』以外の多種の資料をも駆使して明らかにしている。
旅行記録のエッセンスとして読んでも充分に面白い本であるが、さらに、西郷隆盛と大久保利通のその後の対立関係に考え及ぶとき、大久保にとっての使節団の経験の意味する所の大きさを改めて認識させられる。使節団に参加したか不かが2人の関係を決定的に対立するものとしたことが、本書を読むと理解できる。(文:宮) |