マルクス主義哲学者の古在由重と政治思想史家・政治学者である丸山眞男が、古在由重の主に戦前期の活動をめぐって対談した記録である。はじめの形は、戦後21年を経て1966年に雑誌「エコノミスト」に連載され、のち「昭和思想史への証言」(毎日新聞社、1968年)に収録された。一言で言えば、誠実なるマルクス主義者である古在由重の思想と行動の軌跡を丸山眞男が基底に尊敬の念を抱きつつ、対談の形で表現したもの。
古在由重の思想と行動は、時が移り状況が全くちがう今日に至っても、その淡々とした語り口、平易な言葉で、静かではあるが、胸に伝わるものがある。
一マルクス主義者の人生を通して昭和史あるいは昭和思想史の断面を見ることができる本である。昭和戦前期を考える際に逸することのできない日本人の姿が小さな本のなかにたしかに刻まれている。
本筋とはすこし外れるが、ひとつだけ印象的なエピソードをあげると、古在由重の学生時代に東大総長をしていた父親の、静かだが毅然とした態度と、その父親の無言の感化を受けていたらしい息子との関係を伝えるくだり。とにかく大上段にかまえず、いつも自然で慎ましい態度が、マルクス主義哲学者古在由重云々ということはまた別に、忘れがたい読後感を残してくれる。(文:宮) |