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私本GHQ占領秘史

中薗英助/著
徳間書店
(徳間文庫)
終戦のとき25歳だった中薗英助の自伝的長篇エッセイ。話題は自在にあちこちへ飛び回るが、中心は昭和20年代のGHQ占領時代のことである。歴史を大上段に斬るのではなくて、自分の仕事と生活に関連させて書いているので、当時の生々しい空気まで感じることができる。当時のことを、子供時代に多少見ていた私にとっても、中薗さんに触発されて、いろんなことを思い出す。
中薗さんは戦時中、中国に居たから、中国にかかわる話題も出てくる。「何日君再来」の作曲家劉雪庵とその子息の話を読めば中薗さんの作品『何日君再来』を読みたくなる。

GHQ内部のウィロビーとホイットニー、ケーディスとの対立、キャノン機関の話、そこからゾルゲ事件のこと、さらにはハーバート・ノーマンの悲劇、あるいは昭和20年代に続発している残虐な事件などエピソードをひろい出して並べればキリがないが、全篇を通して戦後日本の左翼勢力に共感をいだきながら仕事をし、運動にも足を踏み入れ・・・という1人の人間の歩みが、たんたんと語られる。マッカーサー元帥を頂点にいただく占領軍の統治と、その下で戦後政治の足跡を刻みつけていった日本政府の動きを、適度な距離を保ちつつ整理し、評価している。とりわけ冷戦の激化によって日本国憲法の下で日本の再武装が進められていくくだりは、今日の日本を作り出した転期だったことを改めて考えさせる。(文:宮)